第236話 how much

 注文を受けていた磁器が出来上がった。はっはっは、魔法って素晴らしい!


 それにしても……


「一人分の食器って、こんなにあるんだ……」


 目の前のテーブルに出したのは、銀髪陛下の分と太王太后陛下の分。領主様の分は別枠。あっちは複数人用だからね。


 いやー、皿だけで何枚あるのよこれ。


『肉、魚、専用の皿が三枚ずつ、パン、フルーツ用がそれぞれ二枚ずつ、スープ用のボウルが三つ、スープ皿が三枚、デザート用の器が形を違えて四種類、ここまでで二十品です。これに塩入れ、香辛料入れ、ソース入れがそれぞれ二種類ずつ用意しました』


 つまり、全部で二十六品。どっかの一日に食べる品目みたい……


 そういえば、ポットとかカップアンドソーサーがないけど、今回の中には入っていないのかな?


『別枠です。注文があれば制作出来るよう、準備はしてあります』


 そうなんだ。こっちでも、コーヒーやお茶の文化はあるから、聞いたら欲しがるかもね。あ、領主様もか。


 さて、問題はこれをいくらで売るか、なんだけど。いやー、実は報酬の話、何もしてこなかったんだー。


 あの時は、磁器を注文されたって事であたふたしちゃってたからさ。それに、今回の制作、私殆ど関わってないよね?


 柄に関してあれこれ言ったくらい? 後は全部亜空間収納内で、検索先生がやってくれたし。


「先生ー、これ、いくらで売ればいいんでしょうかー?」

『……検討もつきません』


 マジで? うーん、時価で、とかも言えないしなあ。いっそ、両陛下に値段つけてもらう?


『一応、参考価格として、地球の高級磁器の値段はこのくらいです』


 ……ナニコレ。皿一枚でも軽く四桁円いってるんですけど。下手すると二桁万円……


 軽く計算しただけで、最低でも二十六万ブールって事? 一ブール一円くらいの価値だからね。


『おそらく、桁が一つか二つ程足りないかと』


 マジでー!? って事は、二百六十万か二千六百万……だめだ、気が遠くなりそう。


 別にね、金額のすごさに気が遠くなる訳じゃないんだよ? 言っちゃうと、今回の注文品って、普段使いの食器じゃない? それにその値段がつくと思うとね……


 いやまあ、好きな人はお金かけるっていうけどさあ。


 散々悩んだ結果、じいちゃんに助言をもらう事にした。




「食器の値段? 例の、磁器のかのう?」

「うんそう。注文受けた時、値段決めるの忘れてて……」

「お主らしいのう」


 うう、反論出来ない……


 とりあえず、検索先生から教えてもらった参考価格を告げると、じいちゃんが考え込んじゃったよ。


「うーむ、確かにそのくらいはするのう」

「え? そうなの?」

「どちらかというと、高い方じゃぞ?」

「マジでー!?」


 そんな、家一軒買えそうな値段の食器類って……


 驚いていると、じいちゃんが溜息を吐いた。


「王族の使う品じゃからの。そのくらいなら安いほうじゃないかい?」

「これで、安い?」

「お主も、ローデンではそれなりのものを使っておったのではないのか?」

「……ローデンでは、銀食器だった」


 そう、磁器を使ってる人なんていなかったし。てか、磁器ってまだこっちの世界にはないんだっけ?


『向こうの大陸のある国で、そろそろ作られる頃合いです。土器は長く使われているので、そろそろ陶器が出始めています』


 ほほう。なら、向こうの大陸の技術だってのも、あながち嘘じゃないんだ。ナイス判断、自分。


 結局、じいちゃんの助言もあり、金額はお高い方で決定。


「これに文句を言うようなら、余所の王族に売るとでも言えばよかろう」

「じいちゃん、悪い顔してるよ」

「失礼じゃな。悪くはないわい。これも交渉術というものよ」


 本当かな? まあいいや。出来上がったし、一旦お届けしてこようっと。




 ほうきでちゃちゃっと王都まで。空を飛ぶと、本当に楽。


「お邪魔しまーす」


 前に剣持ちさんから、来るならほうきで空から来いって言われたから、その通りにしてみた。王宮の中庭に下りたら、侍女さん達が慌てふためいてる。


「空から来るにしても、場所を考えろ!!」


 そして駆けつけた剣持ちさんに怒られるというね。空から来いって言ったの、あんたじゃん!


 そう言ったら、剣持ちさんがちょっとうろたえたから、少しだけすっきりした。


「確かに……だが、中庭にいきなり来る時は、前もって報せておけ」

「はーい」


 今度来る時は、一時間前くらいに中庭に手紙でもばらまこうかな。一通だけだと気づいてもらえないかもしれないし。


「それで? 今日はどうしたんだ?」


 おっと、剣持ちさんに聞かれて、今日の用事を思い出したよ。


「銀髪陛下と太王太后陛下に注文されていた品、出来上がったのでお届けにきましたー」

「お前……いい加減陛下のお名前くらい覚えろよ」


 えー? 銀髪陛下で通じるじゃん。

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