第235話 温泉はいい!

 その後、話を聞きつけた領主様も来客用に欲しいと言い出したので、結局三人から注文を受け付ける事になりました。


 おかしい……私、職人じゃないのに。冒険者なのに。これ、どう考えても冒険者の仕事じゃないよね!?


「そうぶーたれるでないわ」

「ぶーたれたくもなるやい」


 王宮からの帰り道、領主様の馬車の中でじいちゃんと言い合う。この馬車、領主様にお借りしたもので、このまま砦まで送ってくれるってさー。


 ただ、結構時間がかかるので、途中でちょっと魔法でスピードアップを狙ってる。御者の人が驚いてパニックにならない程度にしないとねー。


 さて、そんな馬車の中には当然、私とじいちゃんしかいない。


「まあ、磁器を砦の外に持ち出したお主が悪いからのう」

「うぐ! そ、それを言われると……」


 うん、調子乗ってパフェを作る器ないなー、じゃあ作っちゃえって作ったのは、認める。


「それでも! ドラゴンの鱗を使うのは自重したんだよ!?」

「自重の方向性を間違えておらんか?」


 えー? そーかなー? だって、本当はガラスっぽい器にしようと思ったんだよ? そこあえて磁器にしたのにー。


 まあ、食器セットの納品は少し時間をもらったから、しばらく温泉で疲れを癒やしてからにしようっと。


 何に疲れてるって? 式典での気疲れだよ!




 温泉はいい。疲れも何もかも洗い流してくれる……


「あー、極楽極楽ー」


 やーっぱお風呂はいいわー。特に温泉は最高ー! しかもまだ日が高いうちに入るこの贅沢感。


 理由はわかんないけど、明るいうちに入るお風呂って、特別な感じがするんだよねー。なんでだろ?


 お風呂上がりはイチゴ牛乳。ちゃんと瓶も再現してみました。中身は温室で栽培したイチゴと砂糖、デンセットで手に入れたミルクで作ってるので、添加物なし。よく冷えてておいしー。


「ぷはー」


 温泉には浴衣でしょって事で、浴衣と作務衣を作ってある。ヌメリゴマって、色々使えるねえ。そのうちコットンも探してみようかな?


『綿花は別大陸に自生しています。ダガードでの栽培は難しいですが、温室でなら栽培環境を整える事が可能です』


 そうなんだ……なら、温室で栽培しようかな。木綿って、結構あれこれに使うから。


 そういえば、ダガードの人達の服って、何の素材で出来てるんだろう?


『一般的によく使われている素材は獣毛です。魔獣素材がよく使われていて、それ専門に狩る冒険者もいる程です』


 そうなんだ……ダガードって、夏でも暑くないし、逆に涼しいくらいだもんね。そりゃ温かい素材が使われるの、わかるわ。




 温泉でリフレッシュした後は、食器のデザインに取りかかる。一応、お仕事として受けちゃったからね。


 領主様の分は、手持ちの無地の磁器を見せたら、それがいいと言っていたので、既にある。


 新たに作るのは、銀髪陛下の分と太王太后陛下の分。


「んー、銀髪陛下のは、髪の色の銀を入れようか。後、皿とかのど真ん中に名前のイニシャルをデザイン化したものを入れるのはどうだろう?」


 よく、海外の美術館や博物館に収蔵されている、昔の王族が使っていた食器とかにあるよね。


 銀髪陛下は王様だから、そういうのもいいんじゃないかな。男性に花柄の皿もないだろうし。


『いいかと思います。後は、適当な模様を皿やボウル、カップの縁に入れましょう』


 よろしく! 柄の色は、銀と何がいいかな……銀髪陛下の瞳の色って、緑だっけ。じゃあ緑で。濃い緑と薄い緑の二種類で入れるとか。


『では、模様はこちらで決めますね』


 ありがとー、先生。さー、銀髪陛下の分は決まったから、次は太王太后陛下の分だな。


 確か、太王太后陛下は薔薇がお好きとか。こっちにも薔薇があって、地球世界みたいに品種改良されて色々な種類があるのには驚いた。


 中でも、太王太后陛下のお好みは色が淡くて丸っこいフォルムの薔薇がお好きらしいよ。


『では、その花を縁と真ん中にあしらった図案にしましょう』


 そうだね。薔薇の色はピンクで。葉の緑も入れようか。あんまりごてごて飾らずに、白い地を生かすような、さりげないデザインで。


『国王の分と併せて、試作品を作りましょうか?』


 実物でなくてもいいんじゃないかな? 魔法でそれっぽく見える形に作れば。デザイン見るだけなら、本物である必要はないでしょ。


『それでは』


 検索先生が、あっという間に銀髪陛下の分と、太王太后陛下の分を作り上げた。早。


 でも、完成予想図は凄くいい。図というか、3Dみたい。回転も出来るよ、凄いなこれ。


 くるくる回して楽しんでいたけど、デザインはこれでいいと思うな。


「後、底の裏に偽物防止の為のマークを入れたいな。そうだなあ……砦を簡略化したマークとか」

『こんな感じでどうでしょう?』


 あっという間に3Dのカップに、今言った通りのマークが入る。うん、さすが検索先生、いい出来です。


 デザインが決まり、マークも決まった。後は、作るだけですねー。銀食器を参考に、皿やらボウルやら塩入れなんかを作ろうか。

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