第234話 磁器

 式典も終わったし、とっとと砦に戻ろうと思ったのに、まだ帰れません。


「何ででしょう?」

「今王宮を出ると、面倒な連中に捕まってしまうよ?」


 それは嫌。領主様の話だと、王宮から一歩でも外に出ると、国内外の貴族がわらわら寄ってくる事になるんだって。何それ怖い。


「王宮内では、陛下や私の目が光っているからね。でも、さすがに外までは目が届かない。そういう場所を狙うんだよ」


 勘弁してよお。




 式典翌日も王宮にとどまる事になったので、どこかから聞きつけた太王太后陛下からお茶に呼び出されました。


 本日のお茶のお供はベリーのムース、ホイップクリーム添え。本当はもう少し暑い季節に食べたいお菓子だけど、なんとなく今日の気分はムースだから。


「綺麗ねえ」


 ムースを取り分けた皿を見て、太王太后陛下がうっとりとしている。うん、今回の皿も、磁器を使いました。


 真っ白い皿に、縁の部分だけちょっと模様を浮かび上がらせてる。なかなか上品に出来上がった一品。


 ……模様の部分は、検索先生にお任せで作ってもらいました。こういうのって、センスが物を言うよね。


 真っ白いお皿の上に、ベリーの色のムースと白いホイップクリーム。甘さ控え目でおいしい。


 お茶は渋みの少ない軽やかな味。偶然だけど、ムースとよく合うわー。


「以前食べたお菓子の器も素敵だったけれど、今日のお皿も素敵だわ」

「ありがとうございます」

「それで? どこでこれを手に入れたの?」


 う……。やっぱりそうなるかー。うかつに使うものじゃないね、本当。でも、ここは誤魔化さない方がいいか。


「実は、自分で作りました」

「なんと!」

「えーと、以前違う大陸を旅した事があるのですが、その時に山間の小さな村でこうしたものを作ってる場に行き会いまして、製造法を教わったのです」


 嘘でーす。今この場ででっち上げました。でも、向こうの大陸の製造法と言っておけば、確認しようがないもんね。あの大陸、かなり広いし。


 太王太后陛下は、何やら考え込んでます。嫌な予感。


「これ、本当にあなたが作ったのね?」

「はい……」

「では、あなたに私の食器、一揃いを注文したいわ」


 やっぱりー!


「えーと、でも、私は職人でも商人でもないので……」

「構いませんよ。私が望む品が出来上がるのであれば。何か必要なものがあれば、遠慮なく仰い。出来る限り揃えましょう」


 ダメだ、逃げられない……どうしようかな。実際、磁器に関しては検索先生に丸投げ状態なんだよね。


 という訳で、現在磁器ってどのくらいの数があるんでしょうか。


『一人分の食器類で換算して、約二百五十六人分あります』


 え? いつの間にそんなに作ってたんですか?


『ちなみに、既に絵付きの磁器も作成しています。そちらは二百五十六人分のうち約半数です』


 マジで!?


『さらに、半数のうち絵柄がシリーズとなっているものが数種類あります』


 どこまでいくの!? その絵柄のシリーズって、どんなの?


『具体的には、砦周辺の草花、果実、青一色で描く小鳥です』


 ちょっと後で見せてもらおうっと。んーと、じゃあ太王太后陛下の注文は受けても大丈夫かな?


『食器の種類、数、形状などがわかれば問題ありません』


 多分、お皿でもスープ用とか肉用、魚用、パン用とかで数種類必要だろうし、塩入れとか胡椒入れ、フルーツ用のものとかもいるのかな。


 あ、ボンボン入れとか。それに、ティーポットとシュガーポット、カップアンドソーサーも。あれ、結構な数だなこれ。


「えーと……一揃いと申しますと……」

「ああ、必要な種類などは後で一覧にして渡します。心配はいらなくてよ」

「出来ましたら、形状も知りたいので、見本などがありましたら見せていただきたく」

「銀製でいいかしら?」

「はい、もちろん」


 こうして、太王太后陛下の食器ワンセットを作る事になりました。




「お婆様の食器を作るそうだな」


 どっから聞きつけたんですか? 銀髪陛下。太王太后陛下から注文受けたの、つい数時間前ですよ。


 現在、王宮の中の区画、中宮(なかみや)と呼ばれる場所での昼食の席。ええ、銀髪陛下の真ん前でのお昼ご飯ですよ。


 じいちゃんも一緒なのかと思ったら、何故か領主様と話があるから欠席だそうな。何だかなー。


 王宮だから、てっきりだだっ広い部屋のながーいテーブルの端と端に座って、声もよく聞こえないくらいの距離になるかな? と思ったら。


 意外にもこぢんまりとした部屋の丸テーブルで、何だかアットホームなお昼です。


「それで? 先程の質問の答えは?」

「あー、はい。作る事になりました」


 あの後、速攻で銀食器のワンセットが部屋に届けられたんだよね。しかも、それらは新品でプレゼントしてくれるんだって。太っ腹。


 しっかし、あの銀食器、種類が多かったなあ。あれ全部作るのか……一応、用途が書かれた一覧ももらってるので、検索先生とデザインの相談だな。


 ええ、自分のセンスは一切信用していませんが何か?


「その食器は、作るのに時間と手間はかかるのか?」

「普通に作ればそうですね。私の場合は魔法を使うので、そんなには」


 多分、負担がかかってるのは検索先生の方だろう。そのうち、先生を労いたいんだけど、どうすればいいんだろうね? やっぱり温泉?


 そんな事を考えていたら、銀髪陛下からの要望が飛んできた。


「では、俺の食器も注文しよう」


 待ってー、私、本当に職人じゃないし、商人でもないのよー。一介の冒険者なんですがー。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る