第233話 終わってほっと一息

「大変幸先のいい式典だったな」


 式典終了後、私とじいちゃんは領主様と共に、王宮内にある領主様の部屋に案内された。


 領主様は、とても機嫌がいい。何せついさっき終わった式典で、予想外にいい事が起こったからね


 なんと、別大陸との交易の諸々の成功を神に祈ったら、祝福されちゃったー。


 つか神様、そんな簡単に祝福とか与えちゃっていいんですかねえ?


『あの程度の祝福なら問題ありません』


 あ、そうなんすか……てか、なんで検索先生がそんな事知ってるの?


『……黙秘します』


 なんかずるくね?


「神の祝福を得たのなら、今回の交易に関する事業は安泰ですのう」

「まったくだ。まあ、最初の交易船を出して、それが帰ってくるまでは気が抜けないがね」


 でも、祝福あったしなあ。この世界、神様が実際にいるから、祈りが届けば願いが叶うし、祝福を受けると色々といい事がある。


 多分、交易船は悪天候に見舞われる事が減るだろうし、交易そのものもうまくいくと思う。神様パワーって凄いし。


 何せ、神馬やドラゴンですら罰には苦しむくらいだからね。


 部屋でまったり式典の話とかしていたら、誰かが部屋に来た。


「失礼します。閣下、少し」

「うむ」


 入ってきたのは、見た事がない人。でも、領主様は知ってるらしい。何やら二人で内緒話してるよ。


「全て追い払え」

「かしこまりました」


 ……内緒話の中身が気になるけど、王宮関連は下手に首突っ込むと大変な事になるってのは、ローデンで嫌という程体験したから何も聞かない。


「さてさて、どなたを追い払うのやら」


 じいちゃーん! 首突っ込んじゃダメだってばー!


「はっはっは、気になるかね?」


 いや! 聞きたくないです! 本音を言うと気になるけど! ここで聞くと、取り返しがつかなくなりそうだから!


「もちろん、気になりますのう」


 じいちゃん! こっちをちらっと見たから小さく首を横に振ったのに! 裏切り者ー。


 一人あわあわする私を余所に、じいちゃんと領主様は楽しそうだ。


「実はな」

「ふむふむ」

「隣国からの使者が、サーリに会わせてほしいと申し入れてきたのよ」

「なんと」


 何だってええええ!? 何で、一介の冒険者の私に!?


 ……あれか、ついバニラやチョコ欲しさに、交易やら大型船やらを領主様に言っちゃったからか。


 自業自得でした、はい。


 領主様によれば、ただの会見申し込みから、果ては何故か求婚までと幅広いらしいよ。


「まあ、貴族と言っても様々だからね。懐事情が寂しい連中にとって、サーリは大変おいしい獲物に見えるという訳だ」


 現在も結構なお金を持ってるし、これからダガードの交易でもお金が入ってくるだろうし?


 形だけの正妻に据えておいて、金だけ吐き出させ、跡継ぎは下級貴族の娘を妾にして産ませればいいとか?


「ふざけんな……」


 丸っきり、ローデンの連中と一緒じゃない! あー、やな事思い出しちゃった。


 一応、表向きは神子を王子妃に迎えた国、って体裁を整えていたはずなのに、ヘデックには早くから愛人をあてがおうとしていたし、私の事も言葉だけは飾り立てていたけど、チクチクといじめてくれたし。


 まあ、愛人に関しては周囲がヘデックの好みを把握していなかったから、ことごとく失敗してたけど。


 そう考えると、トゥレアを送り込んだ隣国って、すごい優秀なんじゃないの? 彼女には一目惚れしてたよ、あいつ。


 まあ、惚れ込んだ一目惚れの相手は、実は隣国のハニトラ要員でしたってんだから、間抜けだよねえ。


 しかも、愛人が原因――というか、最後の一押しだっただけ――で妻には逃げられ、連れ戻せと国から放り出されて、金がなくなるまで遊んで最後は追い剥ぎとして投獄とか。


 落ちぶれっぷりに、笑い通り越して情けなくなってくるわ。私、あんなのと恋愛結婚してたのかー……立派に黒歴史だよね。


「サーリ、心配はいらないよ。君の事は私がちゃんと護るからね」

「領主様……」


 何だろう、凄い安心感。うっかり「一生付いていきます!」とか言っちゃいそう。


「これは心強い味方ですのう」

「賢者殿にそう言ってもらえると、私も張り切り甲斐があるねえ」

「ほっほっほ」


 とにもかくにも、式典は終わったから、これで砦に帰れるなあ。


 あ、そういえば、式典にジデジルはいなかったね。彼女、教会でも高位にいる人だから、こういう場には呼ばれていても不思議はないのに。


 帰ったら聞いてみようっと。

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