第232話 祝福の光
昔、おばあちゃんに「女性の仕度は時間がかかるものなのよ」って言われた事がある。
お化粧の時間とかかなーってあの頃は思っていたけど、普通に今、女性の仕度は時間がかかるものだと実感してます……
下着付けてから最終仕上げまで、どんだけかかるんだこれ。
「疲れました……」
お風呂入って下着付けてコルセット締めてあれこれ付けて、その上からスカートつけたり羽織ったり、ただいま最終工程のレースの飾り付けの真っ最中。
その間、私はずーっと立ちっぱなし。いや、立ったりしゃがんだり中腰だったりの侍女さん達の方がもっと大変なんだけど。
それでも彼女達は、文句一つ言わず黙々と仕事をこなす。疲れたとかいって、すみません……
「お支度終了です」
「ありがとうございました……」
いやもう、式典とか出る前に疲れたよ、本当。
仕度が終わって案内されたのは、いい感じに小さい部屋。王宮とか貴族の屋敷とかって、部屋が広いから空間持て余すんだよね。
でも、ここはそんな私にはぴったりの狭さだ。いいねえ、これくらいでいいんだよ、部屋なんて。
その部屋には、仕度を終えたじいちゃんと領主様がいた。何やら小声で話し合ってたらしい。何話してたんだろう?
「おお、綺麗にしてもらったのう」
「よく似合っているよ、サーリ」
「ありがとうございます……」
リップサービスって、凄いなあ。さっきまで感じてた疲労が、少し軽くなった気がする。
「さて、式典の事を少し説明しておこうか。今回の式典は、サーリは何もする事はない。席に座っているだけでいいからね」
「はい」
正直、それだけだったら、どうして私が出席しなきゃならんのか、説明してほしいところ。
大型船建造の進捗とかを話せってんなら、私の出席も必要なんだろうけど。でも、船はまだ着手していないしなあ。
先に別荘作っちゃったよ。いやあ、温泉いいっすわー。
「そういえば、例の山の別荘は、もう出来上がったんだってね?」
「え? はい。思っていた以上にいい出来になりました。じいちゃんも、庭造りで手伝ってくれました」
「そうか。そのうち、招待してくれる事を期待しているよ」
あー、やっぱりそうなるよねー……まあ、それに関してはじいちゃんと要相談だな。
式典の会場へは、領主様のエスコートで入る事になってるんだって。じいちゃんじゃないんだ。
「わしまで出席する事はなかろうにのう」
「何を仰る。賢者殿にも、しっかり存在を見せつけていただきたいところですよ」
「いやいや」
……式典って、国内の人間だけだよね? 国外の人間、特にとある国の連中が来ると、かなりやばいのですが。
まあ、私は髪の色も髪型も変えてるし、目の色だって変えてる。今の私を見て、神子だと見分けがつく人はいないでしょうよ。
あ、ジデジルは別。あの人は目で見える情報よりも、魔力の色や形で人を認識してるから。
じいちゃんは、砦の話を聞いて私だと思ったらしい。それもどうなの? 他にも、魔力の強い人はいるだろうに。
そしていよいよ式典本番。リハーサルとか、当然ないんだね……
場所は王宮内にある聖堂。式典なのに、聖堂なんだ。何でも、神に港建設の無事故や成功を祈る目的もあるんだって。
聖堂に入ると、二階にある席の真ん前、それも神の像に近い側の席に案内された。これ、かなり重要な人の席だよね……?
「ほほう、特等席じゃな」
「それはもう。今回の一連の事業の要を持ち込んだのは、サーリですからね」
あああああああ。あの時点でやらかしてたのかー。
……まあ、しょうがない、やっちゃったもんは。これでバニラやチョコを手に入れられると思えば、安いもんよ。
温室で作ってもいいんだけど、そうすると今度はどこで手に入れたと問い詰められそうだし。主に今神の像の前に進み出た銀髪陛下に。
式典は偉そうな人達があれこれ話すのかと思いきや、儀式と言った方がいい内容。
この聖堂を預かる主教が神への祈りの言葉を捧げ、銀髪陛下が供物を捧げる。捧げるのは、新しく鍛えた剣と銀の杯。
剣は国の力を象徴し、杯は豊穣を象徴するんだったかな? 王が捧げる供物の代表例だね。
他にも香木や宝石、古い金貨なんかがよく供物にされるんだって。この辺りの知識は、ジデジルとかユゼおばあちゃんに教わった。
供物を捧げた後は、銀髪陛下も一緒に祈りを捧げている。その時、通常じゃ起こりえない事が起こった。
「あ」
聖堂の天井から、光が差し込んだ。天窓なんてないのに。驚いた銀髪陛下が天上を見ているけど、まだ光は消えない。
周囲にいる貴族達からも、どよめきが起こってる。
「お静かに! 神の啓示が下ったのです! 神はこのたびの事業を祝福してくださる! 神に栄光あれ!」
さすが主教。すぐにあの光を祝福の光だとして、港建設と大型船の建設、それに交易の成功をこの場にいる人達に主張した。
いや、多分あの光、本当に神様がやらかしたんだと思う。これでも神子なんで、神気くらいはわかるんだ。
一瞬、銀髪陛下がこっちを見た気がするけど、見なかった事にする。
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