第231話 式典

 温泉別荘はすっかり人気になりまして、じいちゃんもジデジルも二日と開けずに行きたがる。


「明るいうちに入る温泉もいいものですねえ」

「そーだねー」


 あれ、何かやらなきゃいけない事があったような気がするけど、何だっけ……?


 まーいっかー。気持ちいいしー。あー、冬と言わずずっとここに籠もってようかなー。


 そんな温泉三昧の日々を過ごしていたら、王都からいやーなお知らせが来ちゃったよ……


「ナニコレ?」

「招待状じゃのう。どれどれ……ほほう、国王からの正式な代物じゃな」

「なんで、銀髪陛下から公式のご招待?」

「船に関する事じゃな。それと、港か。領主殿に、港建設の費用を出すとか言ったそうじゃの」

「言った……」


 うん、それは確か。でも、あの時領主様に断られなかったっけ? いや、出すのはいいんだけど。


「港建設は、今回国と領主殿双方で金を出し合って行う事業じゃな。そこに高額の寄付金を出した功労者として、王都に招くといったところかの」


 しまったー! そんな落とし穴があったのかー……


 ってか、王族なら高額寄付金出した程度で、庶民を招いちゃダメでしょ! 放っておいてよもう。


 ブチブチ文句を言ってたら、じいちゃんから「めっ」って怒られた。


「港が出来て、お主の作る大型船が出来て、向こうの大陸と直接交易出来るようになれば、ダガードやコーキアン領にとっては莫大な富をもたらす。それに大きく関わり、かつ資金提供もしたお主を粗略に扱わないカイド陛下と領主殿は、良き国王であり良き領主であろう。それに文句を言うとは何事か」

「だってえ……」

「全てはお主の考えの甘さから出た結果じゃな。甘んじて受け入れるように」


 珍しくじいちゃんが厳しい。




 まあね、本当に神子とバレないように、穏便に生活しようと思ったら、もっと人がいない山奥とかにひっそり暮らさないとダメなんだとわかってる。


 でも、それだときっと人恋しくて、すぐに心が病みそうだと思ったんだ。


 だから、髪の色や瞳の色を変えて、一人の魔法士として、神子の顔をあまり知らないだろう北の国を目指した。


 うっかり魔力量が多いのが知られたり、普通は手こずる魔獣を簡単に狩ったりして驚かれたけど、どこまでならバレないか、わからなかったんだよね。


 じいちゃん曰く、領主様にはバレてるらしいけど。でも、領主様は私を冒険者として扱って、決して「神子」としては扱わない。


 ヘデックの事も、落ちぶれた彼を見れば、少しは気が晴れると思ったんだろうし。実際、驚きはしたけど、ちょっとすっきりしたしね。


 それにしても、また王都か……今回は銀髪陛下からのご招待なので、王家から馬車が出ている。紋章が馬車にでかでかと描かれてるよ。


 前に乗せてもらった領主様の紋章とは違うから、これは王家の紋なんだろうね。これは鷹かな? それと王冠と塔、それと花。結構複雑。


 乗り心地は……うん、まあ、そこらの馬車よりはいいんじゃないかな。ただ、日本で自動車やら電車やらに乗り慣れていた身としては……ね。


「心ここに非ずじゃのう」

「んー……」


 まだぐずってるのを、じいちゃんに見透かされてる。今回は滞在先がずっと王宮だもんなー。


「まあ、王都に滞在となると、しばらく温泉はお預けになるからのう。わしとしても、早く砦に戻りたいものじゃ」

「だよねー」


 そう、王都から別荘にポイント間移動をする訳にもいかないから、温泉がしばらくお預けになるのだ。


 いや、出来ない訳じゃないんだけど、誰かに見られたりしたら困るから。色々便利に使われそうだし。




 王都に呼ばれたのは、式典に出席する為でした。そうなの?


「招待状にちゃんと記載されていたはずだが?」

「読んでませんでした」


 てへへって笑ったら、銀髪陛下のこめかみに青筋がびきって走った。隣に立つ領主様は、相変わらずにこやかなのにー。


「まあ、式典といっても、サーリが何かする必要はないからね。その場にいるだけでいい」

「本当ですか?」

「もちろん。ああ、ドレスやアクセサリーはこちらで用意してあるから、心配いらないよ」


 やっぱりドレス着ないとダメなんだー。めんどくせ。

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