第230話 お試し
「これでよし……と」
一人で別荘に来て、作ったあれこれを設置していく。食器も、ちゃんと食器棚を作ってその中に。これも和風な感じで仕上げてみた。
あー、何か懐かしいなあ。おばあちゃんちにあった食器棚みたい。木製のスライド戸で、中が二段になってるやつ。
お箸も置いて、焼き物作る時についでに作ったレンゲも置いておく。いや、何かで使うかなーって。
引き戸は板戸が多いけど、部屋を仕切るのは襖にしてある。これ、絵心がないから無地だけど、本当は絵が入った方が華やかなんだろうなあ。
『入れますか?』
いや、いいです。多分、センスがある人がやらないと派手なだけの代物が出来ちゃうから。そして、私は自分でもわかってるくらいセンスがない。
そういう意味では、この別荘って驚くくらい華がないよなあ。まあ、渋好みでまとめたと思おう。わびさびってやつですよ。多分。
窓枠も全部木製。妖霊樹は固くて軽くて丈夫な上に、暑さ寒さにも強くて熱を通しにくいんだって。なんて理想的な木材なんだ。
窓ガラスはもちろんドラゴンの鱗。砦の修繕の際、たくさん作った窓ガラスの余りを使ったんだ。
いやあ……温室に使ってもまだ余ったからね。どんだけ作ったんだよって感じ。でもまあ、こうして別荘に使えたから、いいや。
「もう別荘も使えるし、ちょっと温泉入っていこうかな」
試しておくのは、大事だよね。ちょっとお湯入れて楽し……いやいや、試しておこう。
まずは内風呂。地下からお湯をくみ上げるシステムは、検索先生が組んでじいちゃんが作ってくれた。ありがとう、じいちゃん。
それを別荘に組み込んで、後は魔力を充填すれば使えるようになるって訳。では、魔力をチャージしていこうか。
お、結構入るんだ。よし、満タン。さーて、スイッチを入れて……
「おお! 熱いー」
源泉の温度は四十五度くらい。ちょっと熱いけど、浴槽に溜めてる間に温度が下がるから、いいか。
源泉掛け流しなので、一度出したらそのまんま。別荘を閉めてる間は、元栓も閉めるけどね。
さて、内風呂を溜めている間に、露天風呂の方も入れておこう。折角作ったんだから、どっちも楽し……試さないと!
露天風呂の方も、スイッチを入れておく。おお、徐々にお湯がたまっていくー。
春真っ盛りとはいえ、北に位置するダガードは日中でもちょっと肌寒い日が多い。露天風呂には最高かも。
ちゃんと外からは見えないように検索先生が計算してくれているので、ここで全部脱いでも問題なし。いや、ちゃんと脱衣所で脱ぐけど。
浴槽が広いから、溜まるまで時間がかかるなー。
待ってる間に、砦に戻ってお昼の仕度。今日のお昼は川魚をスパイスで焼いたもの。味が淡泊だから、濃いめの味付けでもいける。
唐揚げっぽくしてもおいしいと思うな、この魚。名前、何だっけ?
「おお、今日の昼は魚か」
「うん。ちょっと濃いめの味付けにしてみた。生野菜と一緒にどうぞ」
「ふむふむ。うむ、うまい」
「ただいま戻りましたー。あ、いい匂いですねえ」
「お帰りジデジル。お昼出来てるよー」
「いただきます」
「ピイピイ」
「オ腹スイター」
今日もみんな揃ってお昼です。
で、食べている時に、ついうっかり口を滑らせたら……
「お試しか。そりゃ試さんといかんの」
「私もお試しに参加します」
「ピイイ」
「ノワールモー」
まあ、こうなるよね。という訳で、結局全員で温泉お試しする事になりました。
「ああ、気持ちいいですねえ……」
「温泉サイコー……」
普通のお風呂とはまた違うんだよ。温泉はやっぱり温泉なんだよ。ジデジルに突破されて結局一緒に入る事になっちゃったけど、まあいっか。
ブランシュとノワールは、専用の浴槽で入ってる。立って入れるように、深い浴槽を用意しておいたんだ。
出入りもしやすいように、長方形の一辺を階段状にしておいたし。二匹とも気持ちよさそうに入ってる。
さて、内風呂は良かった。では、露天風呂はどうか。
「おおー。これ丁度いいねえ」
岩風呂に入りながら眺める湖もまたおつなもの。生け垣がちょうどいい高さで、お風呂に入りながら湖が眺められる。
湖側は崖なので、普通の人は入ってこられないしね。一応、警戒用に護くん二号をあちこちに浮かべてるけど。
不法侵入者に対しては、二度警告をして、それでも入ってこようとしたら即捕縛。許可なく立ち入りはさせないよ。
今回私とジデジルが入ったのは湖側のお風呂。そんでじいちゃんが入ったのが山側のお風呂。
山側は秋から冬にかけてがいい景色になるんじゃないかなあ。もちろん、今頃の新緑とか、夏の緑とかもいいと思うけど。
次は山側に入ろうかな。
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