第229話 練って削って塗って

 和箪笥も無事出来た。こたつも出来た。こたつ布団の用意も万全。後は……


「あ! 和食器!」


 こっちの食器って、庶民は木製のものが殆ど。貴族だと銀食器かな。


 で、あの金山には磁器が作れる土がある。以前少し採取して、磁器を作成したんだけど、あれどっちかって言ったら洋食器なんだよね。


 白いお皿にスープボウル、カップアンドソーサーとかとかとか。ご飯茶碗に湯呑み、和風の皿なんかは作ってなかった。


『土を採取してくれば、いくらでも作れます』


 そうなんだよねー。でも、別荘の為だけに和食器を作るのも、どうなの? あと、焼き物だけでなく、漆器とかも欲しくなりそう……


『漆は別の大陸との間にある、島国に自生しています。採取しますか?』


 え、何そのイエスノー選択。ここでイエスって選択したら、その島国に行く事になるのかな?


『……』


 返事がない。やっぱりそうなんだ。んー……


「漆器は、今回は諦めよう!」

『残念です……』


 検索先生が欲しかった模様。いや、ほら。漆器はそのうちお重とか作る時に採取しようよ。ね?


『絶対ですよ? 和の食文化に、漆器は必要です』


 そうかな……おばあちゃんちには、なかったんだけど。おばあちゃん、焼き物は好きだったけど、漆器には興味なかったらしいんだよね。


 まあ、検索先生がこう言ってるから、そのうち漆を取りに行く事になるんだろうなあ。お重はなんとなく欲しいし。


 当面、ご飯茶碗、汁椀、お皿と小皿、箸はほしい。汁椀と箸は妖霊樹かなあ。他は焼き物で。


 あ、湯呑みと急須も。ティーポットはあっても、急須はないのよこの世界。緑茶はやっぱり急須でないと。


 あれ? 結構作るもの多いぞ?


『冬までまだ間があります。地道に素材を集めていいものを作りましょう』


 そうですねー。温泉入るだけならもう入れるし、こだわらなければ別荘にこもる事も出来る。


 よし、いい素材集めていいもの作ろう。




 という事で、まずは土を採取。三カ所から別々の土を採取する。


『それぞれ趣の異なった作品で出来る事でしょう』


 いやだから、予言機能まで付いたんですか? 検索先生。ってか、これは予報?


『大丈夫です。問題ありません』


 問題大ありな気がするけれど……まあ、いっか。


 今回の採取には、一人で来てる。じいちゃんは研究に、ジデジルは大聖堂に、ブランシュとノワールは砦で遊んでるって。


 そういえば、そろそろ親グリフォンが来るんじゃないかなあ。何か用意しておくものって、あるっけ?


 グリフォンだと、あの果実は強すぎるとか何とか神馬が言っていたから、果実はなしで。ブランシュがあれこれ食べる子だから、親グリフォンも何でも食べるかも。お菓子でも焼いておこうか。


 土採取も、粘土質の土のみを魔法で抽出して、即亜空間収納へ入れるので手間いらず。服も手も汚れないし。


 三カ所とも、人があまり入らない山の奥だから、人に見られる事もない。まあ、前の妖霊樹狩りの時は、盗賊とうっかり出会っちゃったけど。


 今回はそういう事もないらしい。良かった良かった。


 ちなみに、焼き物の釉薬はどうするのやらと思ったら、ここで意外な素材が役に立つらしいよ。


 なんと、あの金ぴかドラゴンの爪。お詫びの印としてもらった素材の中に、爪やら牙もあったんだ。


 この爪を細かくすりつぶしてお湯で汚れと灰汁を取り、スライムを粉にしたものと綺麗な水で混ぜ合わせるといい釉薬になるそうな。


 配合の違いとか焼成の温度とかで、微妙に色合いが変わるんだって。その辺りは検索先生にお任せして、私は器を作る方に専念するんだ。


 砦に帰ると、まだ二匹は遊んでいて、じいちゃんは研究室。お昼の時間まで少しあるし、土の準備でもしようか。


 採取した土と水を少し混ぜて練る。練って練って練りまくる。力のいる作業だから、魔法でやってるよー。


 練り終わったら、形を作る。まずはご飯茶碗。あ、まだ米を作ってなかったなあ。温室で急成長させちゃうか?


『漆のある島国で、米の栽培もやっているようです』


 それって、お米を買えるって事? 通貨とかどうなんだろう?


『金塊を持っていけば、交換出来るでしょう』


 ここでも金は等しく価値があるんだねえ。んじゃ、手持ちのお金を金塊に替えておこうかな。


 まあ、それもまた後で。今は焼き物焼き物。


 形を整えるのも、魔法でやってる。魔力消費が凄いけど、元々私の魔力量は人より多いから、問題なし。


 私用のとジデジル用のは小さめ、じいちゃんは少しだけ大きめ。あと来客用に中間の大きさのものを十個程作っておく。


 形を整えて乾燥させている間に、焼き物用のお皿を。これは四角って決めてたんだ。


 長方形の形に整えて、右端にちょっとだけ模様を彫る。私のはブランシュとノワールの足形を模したもの、ジデジルは教会のシンボル。じいちゃんには三角帽子を小さくして入れてみた。


 この皿は全員同じだから、名前代わりにね。来客用のは、マークなし。全部同じ形にしてるけど、釉薬の関係で色まで同じになるかはわからない。


 汁椀も、作っておこうか。妖霊樹の細い部分を使って、ぐりぐり削る。一個作ったら、それと同じように魔法で削っていく。


 裏の部分に、皿と同じマークをそれぞれに。来客用には何も入れない。さあ、後は箸だな。


 箸もジデジルと私のはちょっと小さめ、じいちゃんのはちょっと大きめ。来客用はその中間で作る。


 汁椀と箸には、カエルから作った塗り薬を塗っておく。塗り箸じゃないけど、これ塗っておくと長持ちするそうな。


 口に入っても大丈夫なのか心配だったけど、検索先生曰く、『薬になる素材で作っているので、害はないです』だって。


 さて、これで焼き物が焼き上がれば終わりかな?

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