第227話 面倒な事はやらないけど、好きな事はやる
壁も床も屋根も、しっかりスライム断熱材で断熱。夏はいいけど冬は寒いから。スライム、多めに狩っておいて良かった。
あと、検索先生からの薦めで床下や屋根裏の柱や梁にスライム素材の塗り薬を塗っておく。腐食防止と防虫だって。
「お役立ちだなあ、スライム素材」
こんなに役に立つのに、あんまり活用されないって本当もったいない。魔法士が多い南ラウェニアでも、そんなに使われていないらしいよ。
「そりゃ、使い方を知らんからのう」
「そうなの!?」
じいちゃんの言葉にびっくり。お昼休憩にスライム素材の話題を出して、なんで使われないんだろうって言ったら、この答え。
びっくりにも程があるわ。
「スライムは昔から駆除対象なだけで、それを活用しようなんぞ誰も思わんかったからのう」
「うわー……誰も研究もしなかったんだ」
「とにかく、スライムは人気のない、素材にもならん魔獣と思われておったからの。逆に、何故サーリがそんなに知っておるのかが不思議じゃ」
そりゃあほら、検索先生が教えてくれますから。とはいえ、検索先生はこっちが聞かないと教えてくれないけどね。特にちょっと前までは。
最近は……自己主張するようになったね。邪神の影響が消えたからって言っていたけど、どういう事なんだろう。
「いっそ、サーリがスライム素材の有用性をまとめて、発表してはどうかの?」
「えー? やだ、面倒臭い」
大体、私は研究者じゃないからね。何より面倒だし。大事な事だから二度言いました。
いつか誰かが気づいてくれるよ。そうでないなら……別の素材を使い続ければいいんじゃないかな?
スライム素材は安価で幅広く使えるけどね。ただ、使う用途によって使う魔力量が微妙に変わるってだけ。
そこを押さえれば、簡単簡単。
さて、本日中に外観までざっくり終わったので、明日から内装に入るよー。じいちゃんが、外観の手入れを手伝ってくれるって。
「ありがと! じいちゃん」
「いやなに、わしも楽しみじゃからのう」
そうだよねー。温泉、楽しみだよねー。冬まで待たずに、夏の間も湯治といこうか?
「わ、私も手伝います!」
「ジデジルは気持ちだけでいいや」
「ええー……」
ジデジル、神聖魔法系統以外は下手なんだよね……おかしいなあ、魔力量には問題ないし、神聖魔法、特に浄化は誰にも負けないくらいうまいのに。
普通の魔法がてんでダメ。これにはじいちゃんも首を傾げてるよ。
なので、ジデジルのは気持ちだけありがたく受け取っておきます。せっかく建てた別荘、潰されちゃかなわない。
朝のルーティンワークを終えて、別荘建設地へ。こうやって見ると、立派な外観だよなあ。
「変わった建築様式じゃが、なかなかどうして立派じゃのう」
「私の国の建物なんだ。ただ、ここまで凄いのはそうないけど」
「ほう、そうか」
あれ? 言っていなかったっけ? まあ、いっか。ここには日本人なんていないんだから、これが和風建築だってバレないし。
……ん? 何か今引っかかったような。何だろ?
「それで? わしは何をすればいいんじゃ?」
「へ? あ、ああ。これね、図面。この通りに周囲を整えてほしいんだ」
「ほうほう」
まずは、周囲を生け垣でぐるりと囲む。湖側には和風庭園を造る予定。じいちゃんには、図面通りにそっちのほうをやってほしいんだ。
手伝いを断られたジデジルはしょぼんとしているけど、今日も同行してる。今はブランシュとノワールが構ってあげてるみたい。
よし、彼女は二匹に任せた!
廊下や内部の壁、あと畳。掘りごたつも設計してもらった。やっぱり畳でこたつでミカンでしょ。
こっちにミカンはないけど、私なら苗を作り出す事が出来るし、急速成長させる事も出来るからねー。
ミカン、温室で育てた方がいいかな?
「ふんふんふーん」
鼻歌歌いながら、調子よく内装を仕上げていく。天井や板張りの部屋、廊下なんかは、板材にちょっと加工をして渋い色に染めてある。
この染料、何とあのカエルの内臓から抽出した薬なんだそうな。亜空間収納内部で、検索先生が薬を作って塗っておいてくれたんだって。
本当、至れり尽くせりだね。
『温泉宿だけは、妥協出来ません』
宿じゃなくて別荘です。客が来ても泊まらせないよ。招いた人は別だけど。でも、招く人はいないかなー。
ちらっと銀髪陛下が思い浮かんだけど、ダメダメ。神子だって疑惑が晴れたとは言い切れないんだから。
領主様は……見たいとか泊まりたいとか、言い出すかもね。さすがに領主様は断れないよなー。
……太王太后陛下が来る、なんて事は、ないよね?
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