第224話 景色は大事
許可は出た。山にも入れる。資材は揃った。瓦も万全。畳も大丈夫。よし! 今度こそ!!
『では、温泉宿を作りに行きましょう!』
いや、検索先生、温泉「宿」ではありません。温泉が目当ての別荘です。
『……些細な差です』
あ! 検索先生が言い逃れした! まあ、確かに些細な差だからいっか。
「じいちゃーん。別荘建築に行ってくるー
「おお、わしも行くぞい」
「あ、そっか」
別荘を建てるとこを、見たいそうな。
「ブランシュとノワールは一緒に来る? それとも、砦で遊んでる?」
「ピイピイ」
「ノワールモ一緒ニ行クー」
よし、じゃあみんなで行こうか。
「私も行きたいです!! 一人だけ置いてけぼりは寂しいですよう」
「え? ジデジル、仕事は?」
「現状、予定は前倒しで進んでいますので、少しくらいお休みしても問題ありません。先程、使いをやりました」
わー、行く気満々。でも、最近のジデジルは落ち着いてるから、大丈夫かな。
空を飛んで金山へ。私はほうき、ブランシュとノワールは自力で、じいちゃんとジデジルはじいちゃんの空飛ぶ絨毯で。
砦から金山までは、空だとあっという間。
「空を行くのは便利ですねえ」
やっぱりジデジルもそう思う? しかも、空からでないと、あの山まで辿り着くのは結構大変だったりするんだ。
「下の道を行くと、途中から道がなくなるからねー」
「そうなんですか?」
「うん。領主様の山だから、人は近寄らないし、山裾に広い森があって、魔獣がわんさかいるから」
あ、そういえば、技師の人達とか辿り着けたのかな?
このまま空から別荘建設予定地まで行けるけど、許可証があるから、山の入り口付近で下に下りる。
上からも見えたけど、山と森の境目辺りに小屋が建ってた。その脇には兵士達。ここが入り口かな?
「すいませーん」
「何だ? こんな場所に来るなんて、怪しい奴!」
「馬鹿! 総大主教様じゃないか! それに、領主様懇意の冒険者だよ!! あー、申し訳ないが、今この山は立ち入り禁止なんですが」
「ちゃんと領主様に、山に入る許可をもらってきたよ。はい、これ」
備えあれば憂いなしとはこの事か。じいちゃんに感謝かな。許可証を見た兵士達は、驚いて目が丸くなってる。
「え? 別荘建設?」
「便宜を図れって……」
へー、ちゃんと中身見なかったけど、領主様、そんな事書いてくれてたんだ。
「便宜はいらんから、邪魔だけはせんでくれ。場所も、領主殿からいただいておる。通達はされておらんか?」
じいちゃんの問いに、兵士達は向こうを向いて内緒話。
「おい、そんな話聞いた事あるか?」
「いや……あ、待てよ。確か、山奥の一角だけは、技師も立ち入らせるなって言われた場所があったぞ」
「まさか……」
うん、声が大きいから、全然内緒話になってないね。そして、多分その場所が別荘用にもらったところだと思うよ。
「もういいかな?」
「え? あ、はい。どうぞ……」
こんなところで時間食いたくないもんね。
山に入ったら徒歩移動……なんて事がある訳なく。じいちゃんの絨毯に全員乗って低空飛行で移動中。時折すれ違う兵士達がぎょっとした顔をするのが、ちょっと楽しい。
「絨毯が空を飛ぶなんて、誰も思わないもんね」
「わしだって思わんかったわい」
そうでした。空飛ぶ絨毯のイメージを口にしたのは私でした。だって、日本じゃ有名だもん。
山の中は、思っていた以上に進みやすい。木が伐採されて道らしきものが出来上がってる。
そりゃこれから金を掘って領都まで運ぶんだもんね。多分、森の中や近場の道も整備されるんだろうな。
……別荘の周囲、人が入れないような結界か壁でも作っておこう。
「あ、ここだ」
金山って、大きな山が一つどーんとある訳じゃなく、大小七つくらいの山が連なってる連峰なんだ。
そのど真ん中、ちょっと高い位置に目当ての場所はあった。ここ、高台だから見晴らしがいいし、何より裏が結構な崖で侵入されづらい。
それと、その崖の下には大きな湖があって、景色がいいんだ!
「ほう、これはなかなか」
「素晴らしい見晴らしです」
じいちゃんもジデジルも気に入ったみたい。ブランシュとノワールの二匹は、山に入ってからはしゃぎっぱなしだし。
みんな、この場所を気に入ってくれて良かった。
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