第223話 畳

 金山に入る許可は取った。資材は揃った。では、温泉別荘を建てに……


『まだ、足りない資材があります』


 えー? この間、全部揃ったって言ったじゃないですかー、検索先生。


『野望は完璧に。板張りではなく、全室畳にしましょう』


 おー、それいいね。フローリングの部屋も用意して、ベッドで寝たい時はそっちってすればいいし。


 畳でゴロゴロしたーい。こたつでお籠もりしたーい。


『その為にも、畳の材料を採取しに行きましょう。稲藁はないので、妖霊樹の枝を裂いて代用します。芯にはスライムを硬めに成形して使います。足りないのはい草です』


 その前に、この世界にい草はあるんですか?


『あります。誰が持ち込んだものかは定かではありませんが、北ラウェニア大陸ではくびれの付近でよく見られます。人の来ない湿地に自生しているので、誰にも見られず、かつ知られずに採取が可能です』


 検索先生が、いつになく力入ってる。さすが、温泉好き。妥協は許さないという事らしい。


 んじゃ、ちょっくらい草を採取してきますか。




 い草は、ヌメリゴマが自生するような環境に自生している。という事は?


「またカエルウウウウ!!」


 ゲコゲコ鳴くな! 飛ぶなはねるな! こっちに来るな! ヌメリゴマのような深めの水場でなく、浅い水場だからか電撃が思うように放てない。


 下手するとい草に当たって焦げそうになるし。そうすると、検索先生からの冷ややかな気配が漂ってくるのよ。怖い。


 何とかカエルを撃退し、無事い草をゲット。結構な広さで自生していたから、いい感じで採取出来たよ。


『まだ足りません』


 マジで? って事は……


『次の自生地へ行きますよ』

「またカエルー!?」


 今日は、カエル三昧になりそうです……これも、あんまりお肉が食べられない地域の人達にとっては、ごちそうになるんだから。


 もう、カエル肉は組合を通じて恵まれない人への寄付にしようっと……




 無事い草も必要量ゲット。あの後、五カ所も回る事になるとは思わなかったよ……おかげでカエルも大量ゲットだぜ。へへ……


 という訳で、砦に戻る前にデンセットへ。


「こんちわー」


 組合に入ると、待ち構えていたかのようにローメニカさんに捕獲される。うん、もうさすがに慣れた。


 で、連れて行かれるのは当然、フォックさんの部屋。


「で? 今日はどうした」

「えーと、またカエルを大量に狩ったので……」


 また何か言われるかな? カエルばかり狩るなとか? 身構えたけど、フォックさんは凄く喜んだ。


「おお、丁度良かった!」

「丁度良かった?」


 どういう事?


「実はな、西の領境に近い村で、家畜が大量に死ぬ事件があってな」

「え?」

「幸い、人には問題がない。原因が不明ってんで、近場の家畜の肉は食うなってお達しが出てな」

「それで、カエル?」

「猟が出来る地域ならいいが、それが出来ないから家畜を飼ってるって面があってな……」


 その家畜が全滅しちゃうと、この先の食料計画なんかにも影響が出る訳だ。そこに、カエルとはいえ大量の肉がきた。


 そりゃフォックさんが「丁度良かった」って言う訳だよ。


 よし! なら、考えていた通りに。


「じゃあ、カエルの皮とか内臓は売却するけど、肉はその村に寄付って事で」

「寄付?」

「無料で渡したいんだけど、ダメかな?」

「ダメって事はない。喜ばれるさ。領境の村も、豊って訳じゃない。でも、サーリはそれでいいのか? カエル肉だって、いやこの状況だからこそ、高く売れるぞ?」

「おかげさまでお金には困ってないし。カエルも、これが狙いだった訳じゃないんだ。副産物って感じなの」


 本当は、カエルを狩らずに済めばその方が良かったんだ……いや、このカエル肉が人を救うんだから、狩って良かったんだよ。多分。


「そうか……ありがとうな」

「フォックさんがお礼を言う事じゃないよ」

「それでもだ。よし! じゃあ、大量のカエルを出してもらうか」

「ここで?」

「倉庫でだ!」


 ですよねー。




 い草は検索先生が他の素材と一緒にして畳を制作してくれるっていうから、それを待つ。作り終わったら、教えてくれるってさ。


 木材の加工も進んでいる。今回、釘を一本も使わずに建てる予定。木組みって言うんだっけ? 木材同士をかみ合わせて建てるやつ。


 土台はスライム素材を使って、しっかり固める。スライム、超便利。ただ、これを加工するには魔力が必要だから、魔法士が少ない北だと、あまり使われない素材かもね。


 実際、組合でもスライムは増え過ぎた時の駆除くらいしか依頼が出ないし、素材買い取りもない。


 ちょっと、もったいない感じ。

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