第222話 あちゃー

 太王太后陛下のぶっ飛んだ発言に、私もじいちゃんも驚いて言葉が出ない。


「向こうの大陸には、砂糖や珍しいものがたくさんあるのでしょう? それに、行った事がない場所へ行くのはわくわくするわ。そう、これは冒険なのよ!」


 いやー、危険を冒す冒険ってよりは、お膳立てされたツアーって感じになりそうなんですが。


 その前に。


「その話、領主様……コーキアン辺境伯閣下は、ご存じなのですか?」

「いいえ、ジンド卿に言えば、反対するのは目に見えていますから」


 やっぱりー! 領主様も反対案件だよー。ちらりとじいちゃんを見ると、何だかにがーい顔をしている。


 わかってるよ、じいちゃん。相手はこの国で一番身分の高い女性、しかも王族、加えて例の新しい交易に関して一番の大口スポンサー。


 同じクラスの子に、聞いた事がある。彼女のお父さんも、クライアントだかスポンサーだかに無茶ぶりされて大変だったそうだ。


 お父さん本人から聞いたんじゃなくて、お母さんとの会話を盗み聞き……じゃなくて、立ち聞きしちゃったんだって。


 サラリーマンも大変よねえ、って彼女は言っていたっけ。


「……この話は、私だけでは決めかねますが」

「あら、ジンド卿に見つからないよう、こそっとやればいいのよ、こそっと。その代わり、船の建築費用も、あたくしが出します」


 えー!? 多分、造る船の総額、もの凄くなりそうなんですけど。主に素材の値段が。


 自分で狩ったり採取したりするからほぼ無料で造れるけど、それに値段を付けるとなると……


「太王太后陛下、発言をお許し願えますかな?」

「許します。というか、ここは公の場ではないから、いちいち許可を得なくともよい。賢者殿の孫娘は、先程からそうしているでしょうに」

「そうでしたな」


 すいませーん。だって、だんまりよりはいいかと思って。


「では陛下。資金を提供くださるという話ですが、元々船は試験航海が終わった後で、王家に売却する予定なのですよ」


 え? そうなの? ちらりとじいちゃんを見ると、視線は太王太后陛下に向かってる。えー、アイコンタクトもなし?


「ですので、費用提供は辞退申し上げまする」


 この場合の王家って、銀髪陛下個人にって事だよね? さすがに孫が先約なのに、祖母がそれを横取りはダメでしょ。


 そういう事にすれば、丸く収まるという事だね。さすが、じいちゃん。亀の甲より年の功。


 太王太后陛下に対する効き目は抜群だったらしく、おとなしく引き下がってくれました。ちょっとしょぼんとしてるけど。


 あれだよ、交易が始まったら、おいしいスイーツいっぱり作ってもらえばいいんだよ。私? 本職じゃないので簡単なものしか作れませーん。


「そう……仕方ありません。その事、陛下はご存じなの?」

「いえいえ、まだ辺境伯閣下と話を詰める前でございますよ」

「なら問題ありませんね」


 あれ? 何故か、先程までのしょぼんはどこかへ消えて、満面の笑みなんですけど。何か、怖い。


「まだジンド卿で話が止まっているのなら、あたくしが船を買い取っても問題はないわね? というか、やはり建設費用を出した方が早いかしら?」


 あちゃー。話がひっくり返されちゃった。じいちゃんを見たら、笑顔が引きつってる。


 うん、これは、諦めさせるのは、私達には無理だよね。領主様や銀髪陛下にお願いしようよ。


 太王太后陛下は、その後も向こうの大陸の事を根掘り葉掘り聞いてきて、空想をたくましくさせて楽しんでらした。




 翌日、銀髪陛下、太王太后陛下、領主様と一緒の朝食。何だろ、このメンツ。

 テーブルの上は朝から肉が山盛りで豪快だなあ。あ、私はパンとスープとサラダとフルーツで。


「お前は食が細いんだな」


 いやいやいや、朝っぱらから固まり肉食らうあんたらの方が胃が強すぎだよ!


 銀髪陛下、砦に泊まった時に出した朝食に文句は言わなかったけど、多分塊の肉が出てこない事を不思議に思ってたんだろうなあ……


 隣を見れば、じいちゃんも私と似たようなメニューにしたみたい。やっぱ重いよね、あれ。


 そういや、ジデジルはちゃんとブランシュとノワールにご飯出しているかなあ? 朝の散歩は、多分二匹で行ってるだろうけど。


 朝食後、簡単な挨拶をしてから王宮を後にする。あー、何か疲れたー。これはやはり、はやいとこ温泉別荘を作らねば!


 帰りは領主様の馬車で、デンセットまで送ってくれるって。


「サーリ、これが許可証だ」

「ありがとうございます!」


 これがあれば、金山に入れて別荘が作れるー。実は、既に亜空間収納内にて、材木の成形が行われているのですよ。


 現地に着いたら、早速開始だ。


「そうそう、夕べ、ジゼディーラ様に呼ばれたそうだね?」

「う」

「何か、無理難題を押しつけられはしなかったかな?」

「……ご存じなんですよね?」

「まあね。あの方にも、困ったものだ」


 奥宮のさらに奥の太王太后陛下の部屋での話だったのに。侍女さんのうち、領主様のスパイが送り込まれているとか?

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