第221話 召し出されました
さて、本当に私は王宮に泊まる事になりました。あ、じいちゃんも一緒だよ。
「うわー……」
「こりゃまた、贅沢なものじゃのう……」
声を上げて見上げている場所は、王宮でも立ち入りが制限されている中の区画。あれだ、銀髪陛下のプライベート空間。
広くてゴージャス。さすが一国の王の私的空間、という感じ。ローデンでも王宮に住んでいたけど、こことは違ったわ。
あっちは意匠は凄いんだけど、山間の国だったからとにかく土地がなくてね。王宮もわりとぎゅっとコンパクトな感じだったんだ。
その分、細かいところにお金をかけて、贅沢な仕上がりになってたよー。
この王宮は出来上がってからまだ二年しか経っていないっていうし、ダガードは広い平地を持ってる国だから、王宮の広さが半端ない。
そして、この広い空間をほぼ銀髪陛下が一人で使っているそうな。
「部屋はたくさんある。好きに使え」
そう言う程、部屋数があるらしい。
「王様一人の為に、何でこんなに部屋の数があるんだろ?」
「そりゃあ、あれじゃ。数多くの美姫を集めて……むふふ」
「じいちゃん、不潔」
「ふ、不潔とはなんじゃ! ……まあ、カイド殿が側室を持つ事になるなら、それすなわち世継ぎ問題からじゃろう」
世継ぎ問題? ああ、そういえば、銀髪陛下が即位するのにも、争いがあったって領主様が言っていたっけ。
「……そういえば、銀髪陛下ってお妃様はいないの?」
「話に聞いた事はないのう。目指してみるか?」
「やだ。再婚するにしても、王侯貴族は絶対に嫌」
もう、あんなめんどくさい思いはしたくないから。どうもね、ローデンでの経験が原因で、王侯貴族って聞くだけで嫌な気持ちになるよ。
あ、領主様は平気。最初からいい人ってわかってるからかも。
そりゃ、領主様だって貴族だから、裏であれこれやってるんだろうけど、私や領民に影響がなければいいんだ。
通された部屋で、じいちゃんとあれこれ話していたら、扉の向こうから声がする。
入ってきたのは、綺麗な侍女さんだった。普通のドレスを着てるのは、貴族身分を持った侍女さんで、お仕着せを着てるのは富裕層の小間使いさん。領主様に、簡単な見分け方を教わりました。
「失礼いたします。ただいま、太王太后陛下がお二方をお召しです」
お召しって……呼んでるから早く来いってか? 思わず、じいちゃんとお互いを見合う。
私ら、ふっつーの格好で王宮まで来てます。太王太后陛下の前に出るのって、正装しなきゃ駄目なんじゃね?
それでも、太王太后陛下のお召しじゃあ、行かない訳にはいかない。一応、侍女さんに確認したところ、そのままで構わないという話なので、ついていった。
太王太后陛下の部屋は、王宮でも一番奥まった奥宮にある。前は庭園だったけど、今日は奥宮の太王太后陛下のお部屋。
侍女さんが扉脇に立つ兵士……あ、この人達、女性だ。その女性兵士さんに声をかけると、彼女達が扉を開けてくれた。
「失礼します、ジゼディーラ様。お召しの者達を連れて参りました」
「ご苦労様。こちらへ」
部屋は窓から日の光がたくさん入る、とても明るい部屋。お、ちょっと変わった形で面白い。
窓がある面が、半円状に曲がってる。その窓からは、外の庭園もよく見えた。居心地良さそうなお部屋ですねえ。
「さて、そちらの娘は前回、ジンド卿と一緒にいましたね」
「は、はい」
ジンド卿……領主様の事をそう呼ぶ人は、始めてだ。そういえば、銀髪陛下もこの太王太后陛下も、領主様より身分が上の人なんだわ。
「大型船を造るのは、お前だとも聞いていますよ。本当なの?」
「はい、相違ございません」
ちょっと、ローデン時代を思い出していたから、記憶が引っ張られて応対に現れてるー。内心慌てたけど、言っちゃった言葉は取り消せない。
ちらりと太王太后陛下の方を見ると、特に気にした風でもなかったから、大丈夫かな?
「その船に、あれこれ変わった機能を付けるとうのも、本当かしら?」
「はい?」
「ジンド卿から聞いたのよ。入れたものが腐らない戸棚を開発したのですって? 長い航海、まず水が腐る事が問題ですからね」
「は、はい。そうでございます。こちらの祖父が、開発いたしました」
「そう。それで、船の建造は、少し伸びているのですって?」
「はい。あの、来春出航に間に合うよう、造ろうと思っております。なので、秋には始めようかと」
「そう……」
太王太后陛下は、短く溜息を吐くと黙っちゃった。そういえば、この方も出資者だっけ。お砂糖、欲しいんですねわかります。
私もカカオやバニラを探す為に、領主様をたきつけたもんなあ。そして、いずれはダガードを一大スイーツ大国に! ……なんちゃって。
「ところで」
「はい」
「その船、あたくしも乗れるように造ってくれないかしら」
「はいい!?」
本日一番の驚きでした。
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