第219話 お留守なので、押しかけました

 さて、必要資材も揃ったので、建てに行きましょうかねえ?


「領主殿に一言言わんでいいのかのう?」

「あー、そっかー」


 あっちは金山だからね。山に入るのに入山制限? があるかもしれない。領主様に挨拶してから行こうか。


「って、じいちゃんも行く気なの?」

「うむ。温泉にはよ入りたいからのう」


 おっと、ここにも温泉ファンがいた。まあ、気持ちいいからねえ。


 という訳で、領主様のところへひとっ飛び……と思っていたのに。


「え? 王都に?」

「ええ、ごめんなさいね。折角サーリさんが来てくださったのに」


 申し訳なさそうにしているのは、領主様のところの使用人頭を務めるミルアさん。執事さんのすぐ下で、主に女性使用人を束ねるのが彼女のお仕事。


 何度かこのお屋敷を訪問させてもらっているので、顔を覚えられたらしいよ。


 でも、領主様は王都かー……


「んじゃあ、王都までひとっ飛びいくかの?」

「え? マジで?」

「善は急げじゃ」


 嘘だ。絶対早く温泉に入りたいだけだ。


『温泉は何にもまして優先されるべきものです』


 検索先生までー。




 結局、じいちゃんと検索先生の圧に負けて王都まで来ました。えーっと、領主様の王都のお屋敷は、どっちだったっけ?


 私もじいちゃんも、ここで一つ忘れている事があった。


「何者だ!?」


 うん、貴族のお屋敷が並ぶ貴族街区って、入るのに制限がかけられているんだよね……


 前来た時は、領主様の紋章が入った馬車に同乗させてもらったから、王都のどこに行くにも問題なかったんだけど。


 現在、私達は貴族街区の入り口に設けられた門の前で、途方に暮れている状態。


「どうする? じいちゃん」

「ふーむ……お前さん方、ちょいと頼まれてほしいんじゃがの」

「何だ? この小汚いじじいは」


 おいおい、じいちゃんは小汚くなんかないよ? ちゃんと毎日お風呂入ってるし、服だって洗濯して綺麗なの着てるのに。


 どっちかっていうと、あんたらの方が臭うんだけど……ちゃんと、お風呂入ってる? 服、洗濯してる?


 はて? 何か、門番をしてる兵士達がふるふると震えているんだけど。


「サーリよ、考えている事が全部口から出ておったぞ」


 えー? マジでー?


「貴様らあああ!!」


 あ、門番が剣を抜く……と思ったら、背後からどつかれてこけた。


「あー、剣持ちさんだー」

「フェリファーだ!」


 門番の後ろから姿を現したのは、銀髪陛下の側にいる剣持ちさんだよ。


「こんなところで何をしている?」

「えーっと、領主様に、金山での別荘建設を始めるって、報せておこうとおもって」

「金山? ……ああ、例の山か。わかった、ついてこい。そこの門番、この二人の顔はしっかり覚えておけ。コーキアン辺境伯閣下と国王陛下のお気に入りだ」

「ふへ!?」


 どつかれた方も、彼を助け起こした方も、何か変な声を出している。まあ、領主様や銀髪陛下の名前出されたら、普通はビビるよね。


 ……私はほら、元ローデンの第三王子妃だったし、神子だし。ビビる必要はないかなーって。


 ビビる門番二人を見ながら、剣持ちさんが最後に付け加えた。


「それと、風呂にはちゃんと入って服は洗濯しろ。確かに臭うぞ、お前達」


 ちょっと剣持ちさん、いつから聞いてたのよ!




 結局、剣持ちさんに案内されて、貴族街区を進む。


「王都に来るなら、ほうきで上から直接王宮なり閣下の王都屋敷に入るなりしろ。馬鹿正直に門を使う事はないだろうが」

「えー」

「えーじゃない」


 こんな感じで、軽い説教されながら貴族街区の大通りを進んでた。途中途中、あちこちのお屋敷やら貴族街区に出店してる店の事などを教えてくれる。


「そっちの店はなかなかの評判だ。この奥には絶対に行くな。厄介な方の屋敷が固まってる。そこの店の甘味が最近好評らしい」


 いいガイドさんだな、剣持ちさんって。大通りを道なりに進んで行くと、そのどん詰まりにあるのが王宮。


 こうして改めて見ると、やっぱり大きいよねえ。


「本日閣下は陛下のお側にいる。少し待て」


 王宮の門に到着すると、剣持ちさんがそう言い置いて、王宮の門番と何やら小声でやりとり。


 しばらくすると剣持ちさんが戻ってきた。


「行くぞ。王宮内では、俺の側を離れるなよ?」


 おや、このまま領主様の元まで案内してくれるんだ。剣持ちさん、結構いい人だね。


 でも、フィエーロ領でのあれこれは、絶対に忘れない。

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