第214話 カエル

 先に戸棚を作っちゃったけど、ちゃんと本体も作らないとね。


「船の本体は妖霊樹で作って、帆は……」

『以前作ったヌメリゴマの布が使えます』


 え? そうなの?


『糸を太めにしてしっかり織れば、十分使用に耐えうる物が出来上がるでしょう』


 なるほど。以前はシーツとかのリネン類に使ったから、糸を細くよって薄手の布を織ったんだっけ。


 船の帆は、破れないように厚手にしないとならないのか。じゃあ、最初から作らないとね。


 あ、ヌメリゴマが大分減ってる。飛行船作る時、調子に乗ってあれこれ作ったもんなあ。


 あの時は、大型帆船を作るなんて思いもしなかったし。


「ヌメリゴマは水辺に多く自生してるんだっけ。これから行って取ってこれるかな?」


 検索先生に自生している場所を地図で教えてもらう。行って採取して帰ってくるのに、ちょっと微妙な時間だなあ。


 よし、ヌメリゴマは明日。まだ本体も出来ていないんだから。とはいえ、材料を揃えていっぺんに作る方が得意なんだけどなー。


『本体に使用する妖霊樹の数も足りません』


 マジでー? 以前大量に採取しておいたから、足りると思ったのに……


 まあ、今回作るのは、大型船だもんね。使う素材も大量になるか。


 んじゃ、明日妖霊樹狩りとヌメリゴマの採取に行きましょうか。




 採取には一人で来た。じいちゃんは研究室にこもってるし、二匹は砦周辺で遊んでるって。ちょっと寂しい……


 この寂しさは、妖霊樹狩りとヌメリゴマ採取にぶつけるのだ。まずは妖霊樹狩り。


 以前妖霊樹をたくさん狩った谷に来てる。ちょっと上の方から下を見ると、以前と変わらない数の妖霊樹。


 おかしいなあ……あの時、殆ど残さず狩ったと思ったのに。いつの間にこんなに増えてたの?


 でもまあ、これならまた根こそぎ狩っても問題ないよね? まずは前回同様、霧から対処しようか。


 風で霧を巻き上げると、谷の底にびっしりといる妖霊樹の群れ。霧がなくなった事で困惑しているのかと思いきや、前回同様臨戦態勢だ。


 向こうがやる気なら、こっちもやるまでよ。谷の底に下りていったら、妖霊樹もこちらの姿を見つけたらしい。


 なのに、途端に谷の向こう側にざざーっと引いていくのは、なんで?


「何逃げてるのかな?」


 笑顔で聞いてみても、当然ながら答えはない。妖霊樹って、人の言葉は話せないし理解出来ないそうだから。


 怯える妖霊樹達は、谷の奥まで逃げている。おかしいなあ。前回の事を憶えているみたいじゃない。


 でも、どうでもいいよね。どうせ全部狩るんだし。前回同様マジックウォーターカッターで根元を刈り取る。


 ばたばたと倒れる妖霊樹を、片っ端から亜空間収納に入れていった。入れる側から、枝を落として板材にしていく。


 葉っぱや細い枝は、細かく粉砕して肥料に。いやあ、妖霊樹の肥料って、凄くいいんだよ。おかげで畑の野菜も温室の果物もおいしいおいしい。


 さて、今回狩った妖霊樹の数はどのくらいかなー?


『ざっと三千本強です』


 ……前回より、減ってない? あれか? 前に根こそぎ狩ったから、元の数に戻るのに時間がかかるとか?


『……』


 こういう時だけ黙るのは、卑怯だと思うんですけど!? 検索先生!


 結局、検索先生からの返答はその後なかった事だけ、ご報告しておきます。




 次はヌメリゴマ。これは普通の植物なので、特に問題なく採取出来る……はずなんだけど。


 ヌメリゴマが自生する場所って、高確率で水棲の魔獣がいるんだよね。しかも、でかいカエル。


 正式名称はオオツノガエルだったかな? カタツムリみたいな角から水を噴射して、攻撃してくる。


 この水が、ウォーターカッター並の威力なんだな。そこらの金属なら簡単に切断してしまうというね。


 ある意味冒険者にも恐れられるカエル型の魔獣なんだけど、私にとってはいいカモ。


 何せ、水辺に電撃落とせば簡単に狩れるから。このオオツノガエル、皮と内臓が素材になるらしいよ。


 肉は……あんまり考えたくないな。カエルの肉って、鶏肉みたいで淡泊でおいしいって話しだけど。カエルはちょっと……


 で、ヌメリゴマが自生している沼に到着。あー、水の中にいるいる。他にも水棲の魔獣が幾種類かいるみたいだから、いっぺんに狩っちゃえ。


 ほうきに乗ったまま、空中から電撃を沼に落とす。一瞬水面が波立った後、ぷかーっとでかいカエルが水面一杯に浮かび上がった。


 こんなにいたんだ……他にも大小の魔獣も浮かび上がってる。ザリガニ型の魔獣とか、魚型の魔獣とか。中には小型の虫型のもいる。


 虫はいらないので、他の魔獣を魔法で沼の縁まで移動させて、亜空間収納へ。


 さー、これで安心してヌメリゴマを採取出来るぞー。


『帆を作るには、これの倍量のヌメリゴマが必要です』


 何ですとー!? 慌てて、他の自生地へも飛んださ。その際に、カエルやら他の魔獣も狩ったよ。魔獣は解体せずに組合へ売り払った。


「お前はまた……何てものを何て数……」


 フォックさんが頭を抱えて、ローメニカさんが苦笑していたけど、知らない。


 ヌメリゴマの近くに棲息しているカエルが悪いんだよ!

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