第213話 食料用の戸棚

 砦に戻って三時のおやつ。今日のお菓子はシフォンケーキ。プレーンのものに、ホップクリームとフルーツをトッピング。


「おいしいですねえ。ふわっふわです」


 ふっふっふ。シフォンケーキはこのふわふわ感が肝なのだよ。ケーキには珍しく、水を入れるレシピなのだ。油分もバターじゃなくてサラダ油だしね。


 後は卵白を腕が折れる程泡立てる。そしてシフォンケーキの卵白は、冷凍一歩手前くらいまで冷やすのがポイント。


 ものによっては、お湯で温めながら泡立てるのもあるんだけどね。シフォンケーキは冷やす。


 型は網に使った残りの魔法銀を使って、ちゃちゃっと作った。魔法銀って、火の通りもいいから鍋にもいいんだってさ。


 ただ、普通に買ったらもの凄く高い素材なので、鍋にする人はいないそうだけど。


 いいんだよ、私のは自分で作ったんだから。鉱石も自分でこっそり採取したから、かかってるのは自分の魔力込みの人件費くらいだもん。


 シフォンケーキに合わせたのは、紅茶っぽいお茶。作り方がまんま紅茶なので、茶葉の違いくらいしか差がないと思う。


 こっちの紅茶もどきはちょっと渋め。でも、その分香り高くていいリフレッシュになる。いい香りって、安らぐよねえ。


 渋みが強いお茶には、ミルクを入れるといいと思うんだ。こっちの人はお茶はストレートで飲むだけって感じで、レモンもミルクも入れないみたい。


 唯一入れるのは、蜂蜜かな? 砂糖は……まあ、高いからねえ。なので、砂糖を食べ物や飲み物にたっぷり入れるのは、豊かさの証だそうだよ。


 今日のお茶にはミルクのみ。甘めのミルクだから、ケーキの味を邪魔しないほのかな甘さに仕上がるというもの。


「この、ミルクを入れるのはお主の国の入れ方かのう?」

「国っていうか、世界のって感じ? 紅茶自体は、日本発祥じゃないから」


 お茶文化は中国経由だけど、抹茶や煎茶は日本独自じゃなかったっけ。紅茶も、船で運んでる最中に茶葉が発酵したのが元とか聞いたなあ。


 本日のミルクティーは、じいちゃんもジデジルも気に入ったらしい。良かった。




 翌日は、朝からじいちゃんと一緒に私の作業部屋にお籠もり。じいちゃんの研究室とは違って、あんまり物が置いていないのが特徴かなあ。


「では、やるとするかの。どれ、下位種ドラゴンの血を出してくれんか」

「はーい」


 亜空間収納から血を取り出し、用意しておいた皿に入れる。入れ物に入れず、そのまま収納していたから、取り出すのに魔法を使った。


「瓶か何かに入れればよかろうに……」

「つい、面倒で」


 てへへと笑うと、じいちゃんが呆れた顔でこっちを見てくる。


「だってさー、どうせここで皿に出すじゃない? だったら、入れ物に入れなくてもいいかなーって」

「相変わらず雑じゃのう」


 雑って何だ、雑って。まあそれはいいや。このドラゴンの血をどう使うのか、今日知りたいのはそこだから。


 皿に入れたドラゴンの血は、多分百ミリもない感じ。こんな少なくていいんだ。


 じいちゃんはそれに魔力を込めだし、一緒に術式も展開させる。これ、何度やっても私は出来ないんだよね。


 じいちゃんの弟子である以上、これまで私もじいちゃんと同じ作り方が出来るよう修行したんだけど、一向にうまくいかない。


 結局途中で諦めて、私独自の作り方に納まったけど。魔力とか、術式に無駄がないのが、じいちゃんの作る道具の特徴。


 私のは効率悪くてなー。


「さて、こんなもんじゃろ。で? 船の倉庫はどうやって使うつもりじゃ? 中にものをいれるのはいいが、時間停止空間に生き物は入れられんぞ?」

「ああ、それなんだけど、戸棚タイプにして、ずらっと並べようかと」


 実際には、でかい冷蔵庫を並べるイメージです。戸棚って言った事で、じいちゃんにもイメージしやすかったらしい。


「なるほどのう。長い航海に耐えうる量の食料を保存するとなると、相当な数の戸棚が必要になるじゃろうな」

「うーん、それに関しては、実際航行してもらって、かかる時間を計った方がいいかもね」


 一応、くびれの国々から向こうの大陸に行くのに、片道二ヶ月とかいう話しを聞いてるから、その倍くらいかなーとは思う。


 でも、それって帆船で足が遅いからだよね? 魔力でスクリューを動かせば、もっと早くなるんじゃね?


「これこれ、悪い顔になっておるぞ。大方、また魔法で動く船にしようとか、思っておるじゃろ?」

「何故バレた!?」

「お主の考えておる事くらい、わからいでか。普通に帆船にしておけ。下手に魔力で動く船なんぞ作っても、誰も動かせん船になりかねんぞ。何せ、北には魔法士が少ないからの」


 むー。確かに。ここで南から大量に魔法士を雇ったとしても、信用出来る人ばかりとも限らないし、下手すると船が盗まれるかも。


「しょうがない。帆船作ってそれでどのくらいの日数がかかるか、試してもらおう」

「そうじゃな。実際、ここから向こうの大陸まで船で行けるかどうかも、試さないとな」

「そうだね……」


 出港したはいいけど、辿り着けずに海の藻屑となりました、とかだとシャレにならん。


 とりあえず、時間停止の戸棚は船の船倉にびっちり並べられる数を作ってもらう事にした。


 あ、戸棚の料金は私からじいちゃんに支払ったよ。いらないって言われたけど、船作ったら多分領主様が買い上げてくれるだろうから。

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