第212話 ドラゴンハント、キャッチアンドリリースバージョン
下位種ドラゴンは、北ラウェニア大陸の中でもやや南によくいる。ちょっと高めの山を好み、母親を頂点とする家族単位で行動するのが普通。
以上、検索先生からのお答えでした。
「という訳で、ちょっと下位種ドラゴンを狩ってくるから」
「ほう。いつ頃帰ってくる予定じゃ?」
「んー、ドラゴンが見つかれば、すぐに帰ってくるよ」
「必要なのは、血だけじゃからな」
「そうだね……じゃあ、ちょっと考えよっかな」
血だけか……なら、捕まえて血を少し抜いたら、放そうか。キャッチアンドリリースだね。
出発は、朝食後。大聖堂建設予定地へ向かうジデジルを見送ってから。彼女に知られると、色々とうるさいんだもん。
ほうきを出して、いざ空へ。今回は一人で行こうかと思ったら、ブランシュとノワールが一緒に来てくれるって。
最近の二匹は、砦の中にいる時は成長した姿でいる事が多い。外に出る時には、小さくなって私の懐に入る事もあるけど。
今回はドラゴンハント、キャッチアンドリリースバージョンなので、二匹とも成長した姿で飛んでいる。
ノワールもそうだけど、ここのところのブランシュの成長は凄い。体もさらに大きくなったし、飛行距離の伸びもいい。
そろそろ、言葉を話してくれそうなんだけどなあ。
「ねえ、ブランシュ。そろそろ人の言葉は話せそう?」
「ピイ?」
く! 小首を傾げる仕草も可愛い。でも、話せるようになるのはまだ先かあ。
「ブランシュハ、モウチョットシタラ話セルヨウニナルヨ」
「そうなの? ありがとう、ノワール」
ノワールは成長して、随分しっかり話せるようになった。最近では、ブランシュの通訳をしてくれる程。
幻獣の成長って、早いなあ……
二匹と一緒に空を行く。本当は国境とか超える時にちゃんと手続きしなきゃいけないんだけど、面倒なのでスルー。空を行くって、いいね!
まっすぐ南東に進む。検索先生によると、こっちの地方に今多くの下位種ドラゴンがいるらしい。
たくさんいるなら、簡単に捕まえられるでしょ。網を使って一挙に捕まえようかな。
網は魔法銀を加工して作ってるので、下位種ドラゴンでも破れない代物。
ノワールを拾った山で採取した銀鉱石を精製した後、たっぷりの魔力に漬けて作った魔法銀。
護くんの内部にも使ってるけど、余り気味だったんだよね。なので、加工して網にしてみた。
何故と聞かれても、使うかもなーって思って、備えたからとしか。
「お? あれかな?」
北ラウェニア大陸の内陸部分、真ん中からやや下、右よりの位置に山脈がある。
その山に、ドラゴンが集まっていた。
「おー、いるいる」
少し離れた山に隠れて見ているけど、ここまで届く程ギャーギャーと鳴いている。うるさいなあ。
『あれは下位種ドラゴンの求愛行動です』
へ? って事は、あれって、繁殖の為の集まり!?
うわー……恋に為に集まったドラゴンに、血を求めて突っ込む神子。どういう絵面よそれ。
でも、行く。
「とおりゃああああああ!」
気合いを入れて、特製の網を投げる。いい感じに広がって、ドラゴンが集まるど真ん中に広がった。
ギャアギャア鳴きながら一斉に飛び立つドラゴン達。ただし、網で捕らえられた連中はその場でじたばたしてる。
「ふっふっふ。ちょーっとだけ、血をちょうだいね?」
気のせいかな? ドラゴン達が怯えているように見えるんだけど……
網に捕まってるドラゴンは大体十五匹程度。一匹から大体八百ミリくらい血を抜けばいいらしい。
『ドラゴンにとっては痛くもかゆくもない量ですから、大丈夫です』
本当かな。まあ、採血も全部魔法でやるから、ドラゴンに痛みは一切ないけど。
十五匹のドラゴンから、一斉に血を抜き取る。何されてるのかわかっていないようで、ドラゴンは暴れるし騒ぐしで元気いっぱい。
こんなに元気なら、もう少し抜いても大丈夫じゃね?
『一匹につき、もう五百ミリ程度でしたら抜いても問題ないかと』
よし、検索先生のお許しが出たので、追加で採っておこう。別に検査用ではないので、採血した血はひとまとめにして亜空間収納へ。
全部終わったら、網を収納してドラゴン達はリリース。さすがに、こちらに立ち向かってくるドラゴンはいなかった。
無事採血も終わったので、近場でテントを出して遅めのお昼。今日は外で食べる気満々だったので、サンドイッチ。
自家製パンを使って、具はゆで卵、魚のフライ、照り焼き風チキン。それぞれ生野菜もたっぷり入れて、なかなかのボリューム。
「いただきまーす」
「ピイイ」
「イタダキマース」
ブランシュとノワールも、美味しそうに食べている。食後に二匹は水、私はコーヒー。砂糖は入れないけど、ミルクは入れる。
一服したら、テントをしまって再び空へ。さあ、砦に帰ろう。
砦に帰ったら、涙目のジデジルに恨み言を言われました……別にいいじゃん。どこに行こうと私の自由なんだから。
「そうですけど! そうですけどお!!」
さらに泣かれて困った。結局、砦を留守にする時には、必ずジデジルに行き先とおおよその帰宅時間を告げる事になった。
あんたは私のおかんか!
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