第211話 必要素材
王都からも無事に戻り、日常が戻ってきた私が今取り組もうとしているのは、船の建造。
北の荒々しい海にも負けずに長い航海に耐えられる、大きくて頑丈な船を作るんだー。
私やじいちゃんが向こうの大陸に行くだけなら、ポイント間移動や飛行船でいいんだけど、領主様や国の交易となると、船でないとね。
私が作るのは試作品。その後の本格的な交易船は、領主様が今急いで作らせている造船所で作る。
「うーん……空間がいじれないのは、凄く痛いなあ……」
何せ限られた空間でそれなりの居住性を上げないといけないからね。航海が長引くと、一番困るのは飲み水と食料。
水も食料も腐るからね。地球世界でも、船乗りが飲んべえなのは腐りやすい水ではなく腐りにくい酒を船に積んでたからだ、なんて話もあるくらい。
こっちでもお酒なら、ある程度腐らせずにもたせられるんだろうけど……やっぱりじいちゃんに頼んだ方がいいよね。
「じいちゃーん」
「なんじゃあ?」
最近のじいちゃんは、時間があればずーっと研究室にこもってる。また何か新しい道具でも開発したのかな?
研究室から顔を出したじいちゃんを、ちょうどいいからとお茶の時間に誘う。あの研究室、私は立ち入り禁止だから。
何でかって? 研究途中のものを見ちゃうと、私が横から余計な口を差し挟むからなんだって。酷くない? まあいいけど。
本日のお菓子はパイナップルマフィン。輪切りにしたパイナップルを、ちょっと幅広のマフィンの上に直接乗せて焼いたもの。それにコーヒーを合わせた。
「ちょっと聞きたい事があってさ」
「何かの?」
「えーと、時間停止させる入れ物って、すぐに作れる?」
「何じゃ? お主なら、亜空間収納を持っておるじゃろうに」
「いや、私じゃなくてさ。船に乗せるのに」
「船? ああ、領主殿に提案した例の件じゃな?」
「うん」
大きな船作って交易しましょうと提案したのは私だから、なるべく交易関連に関しては手伝いたいんだよね。
向こうの大陸と交易出来ると、カカオやバニラが手に入るから。それに、むこうの大陸にはこちらにない香辛料もあるそうな。
くびれの国々が輸入していてるから、そこを経由してなら手に入れられるんだって。でも中間手数料とかが入るから、割高になるみたい。
そこを自国で直接交易すれば、もっと安く色々な香辛料が手に入るという訳。領主様が狙っているのは、多分こっち。
そして太王太后陛下が狙ってるのは、砂糖の輸入。うちの温室で育てているけれど、砂糖の木は本来温暖なところで育つものだから。
私の質問に、じいちゃんは腕を組んで天井を見上げる。
「作るだけならそう手間はかからんが、問題は材料でのう」
「そっちかー」
魔法士が作る魔法の道具って、作る際に術式の付与を助ける触媒が必要になる。それがじいちゃんの言う「材料」。
この触媒がまあ色々な種類があってね。高価で入手しづらいものから、安価で簡単に手に入る品まで様々。
ちなみに、一番簡単に手に入る触媒は家畜化した魔物の角や蹄。飼育されていて数が多いし、潰す際に必ず出るものだから、そこらの市場でも手に入る。
で、問題のじいちゃんが時間停止の道具を作る際に必要な材料なんだけど。
「そうじゃな……作る道具の大きさにもよるが……」
「船の水と食料を腐らせないくらいの大きさ」
「となると、船倉の一部を全て道具に置き換えるくらいの事をせんといかんぞ?」
「う……それで、何をどのくらい?」
「量を抑えるのなら、幻獣の素材じゃな」
「幻獣?」
ちらっと思い出したのは、神馬とドラゴン。神馬の素材は持ってないけど、いつも果実をあげてるんだから、尻尾やたてがみくらいなら抜いてもいいよね?
あとは、ドラゴンか。ドラゴン素材は鱗、爪、牙に関してはまだ亜空間収納に残ってる。これでもいいかな?
「ドラゴンの素材なら、鱗や牙は使えんぞ?」
「え? そうなの?」
「魔力を引っ張る方向が違う。ドラゴン素材じゃと血が一番じゃな」
「血かあ……」
それじゃ駄目だな。さすがにドラゴンに血を抜かせてくれとは言えないや。
「何も、島のドラゴンでなくとも、下位種ので十分じゃぞ?」
「え? そうなの? 何だあ、それを早く言ってよ。下位種ならいくらでも狩ってくるから」
「……下位種のドラゴンですら、そう簡単に狩れるものじゃないんじゃがのう」
そうは言っても、狩れるんだからいいじゃない。下位種のドラゴンは知能があまり高くないので、人を襲う事もしばしばあるっていうし。
きっとドラゴン被害に嘆いている地域があったら、喜んで狩ってくれって言うよ。
じゃあ、船を作る前に、下位種ドラゴンを狩りに行くかー。
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