第209話 太王太后陛下
おかしいなあ……お菓子を作るだけのはずだったのに。
何故、私は王宮の奥、太王太后がお住まいの奥宮にいるんでしょうか?
「ほう、これを全てこの者が作ったと?」
「はい。ぜひ、太王太后陛下に召し上がっていただきたく」
領主様が若干黒い笑顔で、太王太后陛下に私が作ったお菓子を勧めてるー。ここは奥宮の庭園、その奥にある東屋に私達はいる。
太王太后陛下と領主様、それに私。後はメイドさんが二人いるだけ。あれー? 銀髪陛下とかじいちゃんは? この際ジデジルでもいい。
誰か、側にいてくれないかなー? とても心細いのよ……
丸いテーブルのほぼ対面に、太王太后陛下、左手に領主様。太王太后陛下は、小柄で細身のおばあさま。ちょっと眼光が鋭いけど、気になる程じゃないかな。
テーブルには、人数分のお菓子とお茶。ちなみに、ミルクレープもフルーツパフェも、作ったそばから領主様が小さな袋に入れてた。
あれ、魔法の袋だよね? 空間をいじる術式はかなり古くからあって、一時期技術が途絶えちゃった事もあるらしいよ。
でも、それを復活させて実用にこぎ着けたのが、じいちゃん。あの魔法の袋も、いつぞや作ってどこかの貴族に高値で売りつけた品の一つだな。
入れられる容量は大分制限してあるけど、中は時間の流れが止まっている空間なので、入れたものはその時のままに保存出来るんだ。
だから、冷たいものはいつまでも冷たいままに保てるって訳。おかげでクレープもパフェも溶けてないよ。
ダガードの春は気温低めだけど、今日なんかは結構いい陽気だからね。出しっぱなしだと、多分アイスが溶けるし生クリームもだれると思う。
太王太后陛下は、フルーツパフェから手を付けるらしい。本当は銀かステンレス辺りでスプーンを作りたいところだけど、今回は即席で作った木製の長いスプーンを使ってもらう。
「ふむ、美しい器だこと」
陶器がお気に召した様子。パフェにはガラス器を使いたかったけど、作ってなかったからなあ。
いっそ、ドラゴンの鱗からガラス器を作ろうかな。
『ドラゴンの鱗一つから、作れる器の推定個数は六個です』
そのくらいなんだ……もらった鱗がまだ亜空間収納にあるから、問題はないけど。
また果実を届けがてら、ドラゴンからもらってこようかな。あ、金ぴかドラゴンからもらった鱗もあるんだっけ。
『ゴールデンドラゴンの鱗を使うと、黄色い結晶入りの器が作れます』
マジで!? その方が綺麗かも! よし、砦に戻ったら早速制作開始だ。
パフェの方は、陛下が一口含んで何やら味わっておられる様子。フルーツじゃなくてアイスからいったな。
領主様の方をちらりと見たら、小さく頷いたので、私もパフェを食べる。うん、普通においしい。砂糖少なめにしたのも良かったな。
ダガードでは砂糖は貴重品だからか、貴族の間ではお菓子にはたっぷり使う習慣があるらしい。
この辺りの情報は、若奥様から。試食会場で延々と愚痴っておられましたよ。よっぽど甘すぎるスイーツにうんざりしていたらしい。
試食に出したスイーツのどれも、丁度いい甘さだと言って食べてたもんなあ。食べ方は上品なんだけど、食べてる量は上品じゃなかったっけ。
「これは、蜂蜜ではなく砂糖を使っているのね」
「左様にございます」
「見たところ、この娘は下々の者のようだけれど、どこで砂糖の使い方を憶えたのかしら?」
え……これ、私が答えなくちゃいけないところ? 縋る思いで領主様を見たけど、ちょっと黒い微笑みを返すばかり。
「え……と、南の方にいた事があるので、そこで……」
「そう。これ、なかなかいい味だわ。また作っておいでなさい」
はいと言うのがためらわれる……領主様、こういう時に助け船出してくれていいんですよ? てかお願いします。
「陛下、こちらの料理人に作り方を伝えましたので、お好みの時に作らせればよろしいかと存じます」
「まあ、そうなの? 良かったこと」
太王太后陛下は「ほほほ」と上品に笑いながらも、パフェを完食した。続くミルクレープも、がっついている訳じゃないのに、あっという間に消えてなくなってる。
太王太后陛下といい、若奥様といい、貴婦人方って、凄い。
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