第208話 おばあちゃん
謁見の間での「覗き見」が終わり、このまま城を跡にするのかと思ったら、そのまま別室へ連れて行かれた。
え? まさか私達までジデジルの講義を受けるの?
「ご苦労だったね、サーリ。ここで少し休むといい」
あ、違った。飲み物とお菓子が振る舞われましたよー。疲れた体に甘い物が染みるー。
本当、あの場に立っていただけなのに、なんでこんなに疲れてるんだか。あれか、負の感情って程でもないけど、意地悪王子にあたったのかな?
「それにしても、あの第二王子は見ているだけで疲れる人物だな」
あ、銀髪陛下も同じ意見らしい。領主様も同意しているから、私の感覚は間違っていないって事かな?
「彼はジデジル様に任せておけば問題ないでしょう。きっと講義が終わる頃には、神への信仰心も取り戻しているのではないでしょうか」
領主様、笑顔が思いっきり黒いです……私は何も聞かなかった事にしようっと。あー、甘い物がおいしいわー。
出されたお菓子は、食べるとほろっと口の中でほどける焼き菓子。バターがきいているねえ。これ、ゴーバルのバターかな?
「ゴーバルバターの焼き菓子はおいしいかい?」
んぐ! 領主様、いきなり話振らないで。てか、やっぱりゴーバルのバターを使ってたんだ。
「おいしいです。とっても」
「それは良かった。その焼き菓子は、王都の女性達にも人気でね。ただ、最近は少し飽きられつつあるんだよ」
スイーツって、流行りすたりがあるもんね。よくわかるよくわかる。
「そこで、君に新しい甘味を作ってもらいたいんだ」
「はへ?」
この流れで、何故そうなる? 首を傾げていると、何故か領主様と共に銀髪陛下がどんよりとした空気を醸し出す。
「あのー、お菓子に関して、何かあるんですか?」
「……実はね」
「祖母が、お前の作る甘味が食べたいと仰っているのだ」
祖母? それって、銀髪陛下のおばあちゃんだよね? それって……
「太王太后陛下ジゼディーラ様だ。今は王宮の奥で隠棲してらっしゃるけど、国内で一番身分の高い女性だからね、貴婦人達に与える影響がとても大きい方なんだ」
はー……つまり、銀髪陛下の父方のおばあちゃん、だよね? 先代国王のお母さん。
ん? あれ? なんか引っかかったぞ。何だろ。
「実は、キリナ夫人が王都に来ていてね」
「へ? 若奥様がですか?」
「ああ、それで、彼女にとっての姑である現ツェラー子爵夫人に例の生クリームを使った菓子を送ったそうなんだ」
あ、なんか読めてきた。身分が少し低い子爵夫人が最先端のスイーツを食べて、自分が食べられないのは許せない、とかなんとか?
「ツェラー子爵夫人は、祖母の大親友なんだ……」
違ったー。友達からおいしいお菓子の話を聞いて、自分も食べたいーが正解かー。
にしても若奥様、フットワーク軽いなあ……
生クリームを使ったスイーツをご希望とな。クレープは絶対入れて! というリクエスト付きです。
今更だけど、スイーツにかける女のパワーって凄い。いや、自分も女ですけど。
材料と調理場は用意してもらったので、作っていく。それにしても、背後でじっとりこちらを見ているのは、誰なんだろう?
「ああ、彼等は気にしないでくれ」
「いや、大変気になります。ああも見られていると、気が散って手元が狂いそうです」
「それは困ったな。我が家の料理人と王宮の料理人なのだよ。今回の甘味の作り方を覚えようと、張り切っているんだ」
そんな凄い人達連れてこないでえええええ! こっちは趣味でちまちまお菓子作ってるだけのただの素人なんだから!
領主様に泣きついたけど、黒い笑顔で「ダメ」って言われて終わり……くそう、ひねくれるぞ。
まずはクレープの生地つくり。お菓子はきちんと計量しないといけないので、検索先生の指示通りに粉やらミルクやらを計っていく。
あ、クレープパンも作れとか依頼がくるかな? その辺りは、普通に鍛冶屋さんに頼んでもらおうっと。
生地を薄く焼いてお皿に移していく。今日はミルクレープにしようかな。あとは……あ、そうだ。
生クリームが作れるようになれば、アイスクリームも出来るはず。という訳で、クレープを冷ましている間にアイスクリームを作る。
本当なら時間をかけて冷やしてかき混ぜるんだけど、そんな事やってる時間はないから今日は魔法で時短。
そうだ、卵。日本人としては、生で卵が食べられるように、卵を入手したら常に殻の表面を浄化している。
でも、こっちの人って火を入れない卵は食べないんだよね。じいちゃんも、最近ようやく半熟卵のおいしさに目覚めたくらいだし。
そしてアイスクリームには通常卵黄を入れる。んー、銀髪陛下のおばあちゃんだから、それなりに高齢だと考えると、卵黄は抜いた方がいいかな。
牛乳と砂糖を火にかけて砂糖を溶かし、冷ましてから六分立てにした生クリームを加えて、攪拌しながら冷やしていく。
ああ! ここにバニラがあったなら!! ないものは仕方ないので、攪拌中のアイスに、桃に似た果物を細かく切って投入。
普通に冷やしながら攪拌しても、二、三時間はかかりそうだから、ちょっと魔法で促進しておく。
焼いたクレープを冷まし、アイスを作ってる間にフルーツを切る。ミルクレープ用に薄く切るものと、もう一つ用に一口大やら飾り切りやらをする。
これで全部揃った! 後はクレープと生クリーム、フルーツの順にどんどん重ねていってミルクレープ。
ガラスの器……はここにはないから、手持ちの陶器の器にフルーツ、生クリーム、アイス、生クリーム、またフルーツと盛ってフルーツパフェ。
よし、完成!
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます