第205話 意地悪王子がやってきた
ローデン第二王子ゼシテート。ヘデックのすぐ上の兄で、彼と同時期に公爵位を賜った……はずなんだけど。
そのゼシテート王子が、なんでダガードの王都にいるの?
「ローデンの第二王子というと、ゼシテート殿下じゃな。彼が、ヘデック殿下を引き取りに来られたと?」
「まあ、そうなるな。大使が来た時は、賠償金を値切るだけで役には立たなかったが、彼はどうやら違うらしい」
「というと、賠償金を支払ったのかのう? いくらだったかは知らんが、わざわざ弟の不始末の後片付けに遠い国まで来るとは、ご苦労な事じゃ」
「まったくだ。愚かな身内はへたな敵より厄介だよ」
領主様とじいちゃんは笑い合っているけど、本当にそれだけの為に、あの王子が来たのかなあ?
正直言って、ゼシテート王子に対する私の印象は最悪なのだ。あの人、最初っから私の事を見下していたから。
ローデンの社交界でも、ゼシテート王子とその妃からはチクチクといじめられたんだ。
向こうからしたら、異世界から来た得体の知れない女、なんだろうけど、だからって人を道具扱いするのはないと思う。
もうね、人前で堂々と「邪神を封印する為に呼び出した道具だ」って言い切ったからね! あの恨みは一生忘れてやらないから!
「それで、覗くとはまた穏やかではないが、一体どういう事なのか教えてはもらえんかのう?」
「それは見てのお楽しみだな。内々に要望は受け取っているのだが、これがまた」
そう言うと、領主様は笑い出して言葉が続かない。そんな笑える要求をしてきたのかな……あの意地悪王子が?
一体、何だろう?
結局、領主様のお屋敷に泊めてもらって、翌日一緒の馬車で王宮へ。
ちなみに、本日の私の格好はドレスです。おかしくね? 何で一介の冒険者がドレス?
「王宮に上がる以上、ふさわしい装いをする必要があるのだよ」
それはわかるけど……でも、別に正式に訪問する訳じゃないんだから、従者の格好をするとかでも、よくない?
ダメですかそうですか。なんでじいちゃんまで渋い顔で首を横に振るのよ。
領主様のお屋敷は王宮とそう離れていない場所にあったらしく、すぐに到着した。あー、裾の長い服は動くのが大変。
領主様が手を貸してくれなければ、馬車から転げ落ちていたかも。おかしいなあ、これでも王子妃を二年は務めたはずなのに。
ドレス捌きとか、もうすっかり忘れちゃったよ。
「さて、謁見の間まで行くが、ここから先は声を出してはいけないよ?」
ダガードでは、そういうしきたりなのかな? 私とじいちゃんは無言で頷いて了承を伝える。
「閣下」
王宮から出てきたのは、剣持ちさんだ。こっちを見てぎょっとした顔をしたのは、なんでかな? 返答次第では、北の海までぶっ飛ばすよ?
「どうしたね? フェリファー。サーリの姿に見とれたかな?」
「そ! ……お戯れを。陛下がお待ちです」
「そうだな。案内を頼もう」
「は」
どうやら、剣持ちさんが出迎え役らしい。言いたい事も聞きたい事もあるけれど、声を出しちゃだめっていうから、じいちゃんと二人で黙っておいた。
王宮は複雑な作りをしている。その中を、剣持ちさんは迷わず進んでいった。これ、はぐれたら絶対迷子になるな。
ホールを突っ切って廊下を進み、階段を上ってさらに奥へ。両脇に武装した兵士が立つ大きな扉の前に来た。
「コーキアン辺境伯をお連れした」
剣持ちさんが兵士に伝えると、一人が扉の中へ向かい、しばらくして扉が開かれる。ここが、謁見の間かー。
広い……は広いんだけど、思ったよりは狭い感じの部屋に、調度品は殆どなく、奥に玉座があるだけ。
ただ、壁や柱には装飾が施されていて、天井にも繊細な絵が描かれている。あ、床もよく見たら色の違う木材を使って模様が描き出されていた。
手が込んでるなあ。その中を、領主様がずんずんと進んでいく。今度は剣持ちさんは領主様のちょっと後ろだ。
そうして玉座の数メートル手前に到着。
「来たか、ジンド」
「はい。賢者バム殿と冒険者サーリを伴いました」
そこでやっと私がいると認識したらしい銀髪陛下、こちらを見て剣持ちさんと同じような顔をする。
本当に、あんたら二人は何なの?
「陛下、客人はすぐにこちらにおいでになるのですか?」
「ああ、今迎えをやった」
「では、私達は控えておりましょう。二人とも、こちらへ」
客人は、意地悪王子の事だね。領主様に促されて移動した先は、玉座のあるきざはしから少し離れたところ。
え? ここって、普通偉い人が立つ場所だよね? 銀髪陛下にも近いし。領主様はいつもの場所かもしれないけど、ここに私とじいちゃんを立たせるのはどうなの?
思わずじいちゃんをチラ見したら、向こうも驚いてるみたい。そりゃそうだよねえ。覗くって言ってたから、てっきり物陰から見るだけかと……
これ、思いっきり舞台上じゃん。
はらはらしていたら、再び謁見の間の扉が開かれ、高らかに入室者の名前が読み上げられる。
「ローデン王国第二王子ゼシテート殿下、ご入室」
うわあ、相も変わらず意地悪そうな笑みを浮かべたゼシテート王子だ。あんまり見てると視線があうから、足下あたりでも見ておこうっと。
ゼシテート王子は銀髪陛下の前で一礼し、定型句の挨拶を述べた。この辺りは、どこの王宮も変わらないんだなあ。
一通り挨拶が終わると、ゼシテート王子は本題に入った。
「今回私がこちらに赴いたのは他でもありません。こちらの国にいる神子を返していただきたいのです」
はあああああああああああ!?
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