第204話 招かれざる客@王都
大型船を作る話は、トントン拍子に進んでる。領主様は仕事が早いね。
「なるほどのう……それで、しばらくは砦を留守にするんかの?」
「うーん、港の建設もしないといけないらしくて、それと平行して大型船を作る場所をまず作らないとって話になってるんだ。で、そこらへんが終わってから、私の出番みたい」
「ふむ。さすがに領主殿も、港まで作れとは言わなんだか」
「作れるけどね」
「そこは黙っておけ。あまり便利に使われる必要はないわい」
それもそうだ。でも、その辺りの線引きが、領主様はうまいと思うんだよなあ。
ああ、でも交易が出来るようになって、カカオとかバニラが手に入ったら何作ろう?
でも検索先生、それらがあっちの大陸にあるんなら、向こうにいる間に教えて欲しかったなあ。
『それはこちらの都合です。あしからず』
えー……? 検索先生からの珍しい返答に、ちょっとぽかんとしてしまう。先生にも、都合があるんだ……
そんな感じで待ちの状態でいると、ある日領主様からお知らせが届いた。
「何々? 近々、王都でちょっとした催しがある、ついてはサーリも王都に来ないか?」
はて、何故王都の催しに私が呼ばれるの? と思ったら、ここしばらくあれこれと領主様の利益に繋がるような事を提案してきたから、そのお礼を兼ねてるんだって。
王都で楽しいひとときを過ごしてみないか、ってさ。
「あ、じいちゃんも一緒にどうぞ、だって」
「ほほう? じゃが、そうすると砦にジデジルだけ置いていく事になるのかのう?」
「ご心配なく。私も大聖堂建設の件で王都にご一緒しますよ」
えー、ジデジルも来るのー? まあ、最近は一緒に暮らしているせいか、以前のようなべったりな態度は薄れてるけど。
基本的に、ジデジルはストーカー気質なんだよね。とはいえ、彼女も仕事で行くのなら、そこまで心配しなくていいかな。
領主様からのご厚意だから、断るのもなんだしなあ。でも王都……んー。
「王都と言えば、王侯貴族が集う場所。そんなとこ行くのもなー」
「いいんじゃないかのう。領主殿が呼んでおるのなら、そう悪い事にはなるまいて」
「それもそっか。それに、もし神子だってバレて面倒になったら、砦持ってあっちの大陸に逃げちゃおう」
「そうじゃな」
魔大陸だと、人がいなさすぎて生活が不便になりそうだから、冬の間行っていた大陸に住み着こうと思う。
色々な国があるし、向こうなら不思議と神子は知名度低いしね。山奥とかに行けば、いきなり砦が出来てても、問題にはならないでしょ。
ダガードの王都ジュニセックは、コーキアンの領都ネレソールより大きくて人の多い場所だ。当たり前か、一国の首都だもんね。
砦から王都ジュニセックまで、領主様が用意してくれた馬車で来た。空を飛んでも良かったんだけど、今回はジデジルがいるからなあ。
じいちゃんの絨毯の方に乗せるという手もあったけど、絶対籠を選ぶよね、ジデジルなら。
まあ、せっかく領主様が用意してくれたんだからって事で、馬車の旅を楽しみました。途中の宿屋とかも凄く綺麗なところを押さえてくれてたよ。
まあ……臭いがあれだけど。私の作ったトイレになれているじいちゃん達は、うんざりしてた。私も。
でも、ご厚意を無にする訳にもいかないしねえ。
そんな馬車の窓から王都の街並みを見て、ジデジルが呟く。
「人の数が増えてますねえ」
「そうなの?」
「ええ、以前来た時よりも、多いですよ」
「ダガードは好景気じゃからのう」
ああ、そうだよねえ。金だの銀だのダイヤだのが見つかってるから、あっちこっちの商人も入ってきてるだろうし、仕事を求めて色々な人も来る。
でも、鉱山系はじいちゃんの土人形を使うから、人手は足りてるんじゃないのかな?
「掘る以外にも、ああいった場所には仕事があるもんじゃよ」
「そうなんだ」
知らなかったわー。
王都に到着して、まず連れて行かれたのは領主様の王都邸だ。
「おお、待っていたよ」
「お邪魔しまーす」
領主様がわざわざ出迎えてくれたー。でも、その笑顔って事は、何か面倒な事をさせようとしてますね?
「おや? サーリは何を考えているのかな?」
「イエ、ナンデモナイデス」
領主様、読心術とか使わないですよね?
豪華な部屋に通されて、まずはお茶でもと茶菓子と共に出されたのは、生クリームをたっぷり使ったケーキ。
「遠心分離機の試作品で作ったクリームだよ。我が家の料理人も新しい食材に張り切っていてね」
ほほう。あ、ケーキと言ってもスポンジじゃなくて、タルトっぽい作りだ。下にパートシュクレのような生地があって、その上に固めに泡立てた生クリームとフルーツ。フルーツの酸味がちょっと効き過ぎかな?
「お菓子の感想は後で聞くとして、今回君をわざわざ王都に呼んだのは、ちょっと愉快な客がここに来ているのでね。こっそり覗かないかと思って」
領主様、ばっちり覗くとか言っちゃダメなんじゃないですか? しかもここでもいい笑顔。
絶対、何か企んでるでしょ。
「一体、誰が来ておるのかな?」
「ふっふっふ。実は、ローデンの第二王子がね、いらしているんだよ」
な、何だってえええええええ!?
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