第203話 やりましょーよ!

「おっきな船作りましょ! それで、向こうの大陸と交易するんです!!」


 領都について、領主様の屋敷に行ったら、銀髪陛下効果なのか、すんなり中に入れてもらえた。


 で、すぐに領主様に会えたので、挨拶もそこそこにここに来た理由である船を使った交易の話をする。


「……その船、サーリが作ってくれるのかね?」

「作りますとも!! あ、でも最初の一隻だけですよ? 次からはちゃんと船大工に作ってもらってください」

「はっはっは、いいだろう。では、その辺りの話を詰めようか」

「ぜひ! ……あ、領主様、銀髪陛下を連れてきました。一人でうちの砦まで来てましたよ?」

「なんと。いけませんな、陛下。常にフェリファーだけでもお連れいただかないと」


 二人で銀髪陛下を見たら、なんか陛下が疲れた顔をしている。


「……お前達、今の今まで俺の存在を忘れていただろう?」


 え? そんな事ないよー? ですよね、領主様。


 ……あれー? なんか、領主様がいい笑顔でこっちを見ているんだけど。


「いけないよ、サーリ。彼はああ見えてこの国の国王なんだからね?」


 わー。領主様にはしご外されたー。


「お前もだ、ジンド」

「はっはっは。私が陛下の存在を忘れるなど、あるはずがないでしょうに」


 顎が外れる思いで領主様を見ていたら、銀髪陛下が助け船だしてくれたよ。てか、領主様……やっぱ腹黒い。




 部屋を変えて、船の制作と交易云々の話に移る。


「ふむ、では大陸があるのは確実なんだね?」

「あります! かなり大きいので、各国とやり取りする場合は、個別に回る必要があると思いますよー」

「その辺りは、国の位置等の情報を君からもらえると信じているよ」

「もちろんです。報酬は上乗せでよろしくお願いします!」

「いいとも。私はどこぞの渋ちんとは訳が違う。払うべきところはしっかり払うとも」


 はっはっはと笑う領主様。うん、払いのいい依頼主って最高だね。ところで、渋ちんって誰の事? 領主様にしては、言葉が悪くないかな?


 こちらの様子から読み取ったのか、領主様が鼻で笑った。


「どこぞの地下牢に入れられている第三王子のお迎えがね、早々にフィエーロ伯領に到着したそうだよ」

「え!?」

「随分早いな」


 本当だよ。てか、ローデンからここまでって、そんなに早く来られたっけ?


 その答えは、すぐに領主様が教えてくれた。


「くびれにいた、かの国の大使が来たそうですよ。随分立派な馬車だったそうで」


 くびれかあ。あそこの国々には、北と南、両方の色々な国から大使が来てるから、ローデンも大使を送り込んでても不思議はないね。


 でも、あそこからでも馬車を使ったら、かなりの日数がかかると思うんだけど。ここって、北ラウェニアでも最北端の国だもんね。


 フィエーロ伯領はこの国でも一番南に位置しているけど、それだって国内ではって言葉がつく。


 同じ疑問を持ったらしい銀髪陛下が、領主様に聞いている。


「それにしたって早いだろう。しかも馬車だと? 早馬を各地で取り替えてというなら、まだわかるが」

「馬車そのものに仕掛けがあるようです。何でも、魔法の力を使った馬車だとか」


 あー!! 思い出した! それ、じいちゃんが試作した馬車だわ。たしか、重量軽減の術式を馬車そのもに付与するってやつ。


 でも、あれ確か魔力コストがめちゃくちゃ高いから、失敗作だってぼやいていたのに。


 あの後、試作品の馬車ってどうしたっけ? もしかして、試作品の流用?


 思い出そうとする傍らで、銀髪陛下と領主様の会話が続いていた。


「で? その大使が渋ちんとやらなのか?」

「ええ、賠償金を値切ってきたそうですよ」

「あり得ないだろう」

「ですが、事実です」


 あーあ。ただでさえ、王族が他国で犯罪を犯したなんて、外聞が悪い話なのに、その賠償金を値切るとか、銀髪陛下じゃないけど、本当あり得ない。


「フィエーロ伯は、どうしたと?」

「もちろん、こちらが提示した賠償金を払えなければ、地下牢にいる人物の引き渡しには応じられないと突っぱねたそうです」

「そうか。伯の突然の隠居話に心配したが、必要はなかったな」

「ですが、あの時陛下があの場に行った事は、大事な事でしたよ」

「どうだか」


 不機嫌に吐き捨てる銀髪陛下は、これまで見てきた彼らしくない。虫の居所でも悪いのかな?


「まあ、大使殿は早々に逃げ帰ったそうですから、次に来る時は満額の賠償金を持ってくる事でしょう。でなければ、あの地下牢で第三王子が干からびてしまう」


 もう、いっそその方がいいんじゃないかって気がしてきましたよ。あの人、国に戻っても一生幽閉とかになるんじゃないかな。


 ローデンって、大国としてのプライドが下手な山よりも高いから。他国で罪を犯した王族なんて、表に出さないと思う。


 しかも、他国のハニトラに引っかかるくらいだしねえ。あ、でもそれに関してはあの国の王侯貴族全員が同罪だ。 


 何せ、妃であり神子である私に我慢しろって言ったくらいだもんねえ? あ、ちょっと黒い何かを吹き出せそう。

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