第202話 すぐ作るー!!

 だが、待て。まだ確定していない……はず。ここで逃げ切れば何とかなるんじゃね?


 領主様は無理だけど、銀髪陛下なら多分!


「み、みこってー? 何の事ですかー?」


 やべ。かなり棒演技になってるー。でも、銀髪陛下はあんまり気付いていないぞ!


「神子とは、こことは異なる世界から神が呼び寄せた尊い存在だ。異なる世界の者なら、見た事もない道具や果実を知っていても不思議はない」


 そこか! そこなのか! なら話は簡単だ。


「ああー、それでなんですね。実はあの道具や果実って、別の大陸から持ち込んだものなんですよー」

「何だと?」

「ほらー? 私、冬の間砦を留守にしていたじゃないですかー? その間、海の向こうにある大陸を旅していたんですよー。そこで見つけたんですー」


 どうだ! これなら否定出来まい。何せ、ここと向こうの大陸って、ほぼほぼ行き来がないから。


 くびれの辺りとようやく貿易が可能になるかなー? ってくらいだからね。あの大洋を渡れるだけの船が、まだ作れないらしいんだなこれが。


『大型帆船でしたら、いくらでも作れますよね?』


 いや、検索先生、ここで出てこなくていいですよ! そんな事が銀髪陛下や、まして領主様に知られたら、絶対作れって言われるし!


『あちらの大陸との交易が進めば、砂糖や香辛料、香料などが輸入出来ます』


 何それおいしい。……いやいや、いざとなったら個人で買いに行けばいいんだから。船はなしの方向で。


『実はあちらの大陸に、バニラやカカオがある気配が――』

「速攻ででかい船作るー!!」

「な、何だ急に!?」

「あ、いえ、今急に思いついた事があるので、つい……それより銀髪陛下! 大きな船作って向こうの大陸と交易しましょう! ぜひ!!」

「銀髪陛下って、俺の事か? お前……俺の名前も覚えてなかったんだな……」


 あ、なんか銀髪陛下のこちらを見る目がすわってる。やばい、話をそらさなきゃ。


「りょ、領主様に話す事が出来たから、すぐに行かないと。陛下も、単独でここまで来たって事は、領主様のところから逃げてきたんでしょ! 戻らないと怒られますよ!」

「に、逃げてきた訳じゃ……」


 なんか、視線を外してブツブツ言ってる。これは逃げてきたな。というか、話をそらすの成功。


 その後は、渋る銀髪陛下をせき立てて、ノワールに乗って領都にある領主様の屋敷へ。


 ほうきで行けばすぐなんだけど、銀髪陛下が馬だからねえ。どこかの若奥様のように「籠を譲って!」ってなるのも嫌だから、籠は出さない。


 銀髪陛下の興味は、併走するノワールに向けられている。


「それは、堕天馬だろう? 成体の堕天馬を見るのは初めてだ」

「この子は生まれてすぐ、親が育児放棄したのを保護したんです」

「いくじほうき? ……ああ、確か、堕天馬は天馬から希に生まれるという話だったな。天馬の罪科を一身に受ける存在だから、生まれても育たないと聞いたが……」

「それ! 情報が間違ってます! 堕天馬なんて言われてますけど、別に堕天なんてしてないし、ただの天馬の黒い個体ってだけです。色素異常とかの世界ですよ!」

「すまん、後半の話がよくわからん」


 やべ。ノワールの事だから、つい熱くなっちゃった。


「ただ単純に黒い毛並みで生まれた天馬ってだけです。実際は、天馬より力も強いし飛行距離だって長いんですよ。優秀なんです」


 うん、うちの子凄いんだから。ここだけは鼻高々に言っちゃうよ。


 それにしても、本当、堕天馬の話って間違った話が広まってるんだなあ。ノワールはこんなにいい子なのに。うちの子、最高。


 私の思いが伝わったのか、ノワールがはしゃいでちょっとスピードが上がった。


「おい! もう少し速度を落とせ! その堕天……いや、黒い天馬が優秀なのはわかったから!」


 おっと、つい銀髪陛下を置き去りにするところだったよ。でも、優秀なのは認めてくれたから、ちょっと嬉しい。

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