第201話 あー……ダメだったー

 領主様に神子だとバレているという、衝撃の事実。いや、まだそうだと決まった訳じゃないけどさ。


 でも、じいちゃん達は十中八九バレてるって言うし。


「……まあ、いっかー」


 バレていても、神子だと持ち上げられる気配はないし、普通に……普通? とはちょっと違うかもしれないけど、冒険者として扱ってくれるし。


 何より、砦で好きに過ごせるのは、やっぱり領主様のおかげもあると思うんだ、うん。


 だから、遠心分離機くらいは見逃そうよ……


「お主はまた……そんなじゃから、領主殿にもバレるんじゃ!」

「ええー?」


 おかしいなあ。でも、遠心分離機くらいは、こっちの技術で作られてたっておかしくないのに。


 もしかしたら、冬の間に巡った大陸の方にはあったかも。そう言ったら、じいちゃんから呆れた目で見られた。酷い。




 護衛依頼から戻って三日。デンセットで依頼料は受け取ったし、まだ遠心分離機の話は来ないし、砦でのんびりしてる。


 陽気がいいせいか、ひなたぼっこしているとつい眠くなるんだよねえ。ぐう。


『訪問者です。訪問者です』


 あ、護くんからの報告だ。誰が来たんだろう……って、また銀髪陛下? しかも一人で。


「王様なんだから、単独行動しちゃダメじゃん」


 ぼやきながらも、第三区域の門へ向かう。この時間、ジデジルは大聖堂へ、じいちゃんは研究室におこもり中。


 銀髪陛下は馬で来ていた。


「剣持ちさんや、領主様は一緒じゃないんですか?」

「……一人で来たらダメなのか?」

「王様なんだから、一人で動いちゃダメなんじゃないですか?」


 なんでそう、不機嫌なのよ。まあ、しょうがない。来ちゃったものは。ここで追い返すと、逆に剣持ちさんい怒られそうだし。


「どうぞ」


 門を開けて、中にいれる。馬には詳しくないけど、銀髪陛下の馬って、綺麗だよなあ。毛並みがいいっていうのかな?


 立ち姿も凜とした感じ。まあ、でもうちのノワールの方が格好いいけどね。


 そう、最近ノワールはぐんぐんと格好良さを上げているのだ。体も翼も大きくなったし、飛ぶスピードも凄く速くなってる。


 自己申告だけど、飛距離も伸びてるらしいよ。そろそろ朝の散歩だけじゃ、距離が足りないかもね。




 銀髪陛下を角塔のダイニングに通してお茶を出す。コーキアンでよく飲まれるお茶で、ハーブティーに近い。


 本日のお茶請けは、ジデジルのリクエストでイチゴのスコップケーキ。といっても、一人分ずつカップに入れて作ってるので、ちょっとトライフルっぽい。


「どーぞ」

「ああ」


 心ここにあらずといった風情で、カップを持ち上げる銀髪陛下。黙っていれば絵になるなあ。


 本日のケーキの出来は、まあまあ。ちょっと生クリームに砂糖を入れすぎたかなあと思ったけど、イチゴの酸味が利いてるから、大丈夫だったわ。


 今度はカスタードクリーム作ってシュークリームを……でも、バニラビーンズがまだ見つかってないんだった。


 やはりあれか。温室で勝手に創造して栽培してしまうか。外に出せない代物が段々増えていく……


 何やら考え込んでいた銀髪陛下は、ようやく顔を上げた。睨まれると、怖いんだけど。


「この赤い果実、どこで手に入れた?」

「え? えーと……」


 砦の温室です、と言ってしまえばいいんだけど、なんとなく言えない雰囲気。誤魔化したら、その場で怒られそう。


「見た事のない道具、見た事のない果実。そうしたものの存在は、俺も聞いた事がある」


 ……もしかして、これ以上聞いちゃダメな奴じゃね? これ。でも、こういう時に限ってじいちゃんもジデジルも戻ってこないー!


 張り詰めた空気の中で、銀髪陛下が静かに言った。


「お前は、神子なのか?」


 あー……やっぱ聞いちゃダメなやつだったわー……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る