第200話 そんなまさか

「そういえば、ユーリカは本名じゃなかったのう」


 最初は本名名乗る気がなかったから使った偽名だったけど、おかげで命拾いしたもんなあ。


「ユーリカはおばあちゃんの名前をもじったから、きっとおばあちゃんが守ってくれたんだ」

「それにしても、何でまた偽名を名乗ったんじゃ?」

「……本名嫌いだから」


 うん、それにつきる。でも、結婚に関してはそれで助かったんだからいいや。あの国にずっと縛り付けられるなんて、今となっては絶対嫌だし。


「話を戻すが、そのうちローデンの使者がヘデック殿下を引き取りに、フィエーロ伯領に来るんじゃな?」

「そう聞いてる。賠償金をふんだくってやれって、領主様が言ってたから」

「さすがは領主殿じゃの」


 じいちゃんがからからと笑う。ジデジルは、何か考え込んでいた。


「賢者様、ローデンは、ダガードに神子様がおられる事を、つかんでいると思いますか?」

「どうかのう?」


 少なくとも、ヘデックは北ラウェニアまで来た。という事は、国もここに私がいるって、確信してるんじゃないかな?


 ジデジルの顔色が、どんどん悪くなってる。


「やはり、私がここにいるから……」

「それだけではなかろう。何か、足跡を残すような事はせんかったか?」


 じいちゃんに聞かれて、ローデンを飛び出した後の事を思い出す。あ。


「持ち出したドレス、くびれの辺りで売り払ったわ……」

「多分、それが一番大きいんじゃろ。ジデジルは神子に目がないのは誰もが知っている事じゃが、こやつがここに来たのは、大聖堂建設の話が再度持ち上がってからじゃ。仕事で来ている以上、ここに神子がいる確証など誰にもないじゃろうよ」


 そっかー。ドレスでわかっちゃったのかー。まあ、今は外見も大分変えてるし、ヘデックにすら見分けがつかなかったみたいだし、大丈夫でしょ。


 よし、ローデン関係はこれでおしまい! 私はフィエーロ伯領で分けてもらった生クリームの話題を出す。


「生クリームというと、あの白いふわふわの食べ物ですよね?」

「うん。あれは泡立ててるからああなるんであって、元は液体。こんな感じ」


 亜空間収納から、ドラゴンの鱗を元に作ったガラスっぽいピッチャーに入ってる生クリームを出す。


 ジデジルはそれを眺めながら、ほうと感嘆の声を上げた。


「この入れ物の事もそうですが、中身も……ですね」


 じいちゃんとジデジルは、お互いに顔を見合わせている。あれ? こんな雰囲気、以前にも経験した事、あるぞ?


 ……もしかして、これはヤバい事をやったかな? 言っとくけど、鱗のピッチャーは誰にも見せていないよ?


 別の入れ物に入っていた生クリームを、亜空間収納内でこっちに移しただけだから。


「一つ聞くが、領主殿は遠心分離機を見て、どんな反応じゃった?」

「反応? 驚いてはいたけど……でも、その後自分のところで作らせるとか何とか言っていたような」


 それに関しても、報酬をはずむので頼むとも言われたっけ。


「反応って言えば、銀髪陛下の方がちょっと変な感じ」

「ほう? どんな反応じゃ?」


 じいちゃんに聞かれたので、遠心分離機を使った日の事を話した。いくら冒険者の女相手とはいえ、いきなり部屋に入ってくるのはどうなの?


 でも、じいちゃんとジデジルはまたしても微妙な表情で顔を見合わせている。


「何なの? もう」

「言いにくい事ですが……」

「サーリよ、領主殿はお主の正体に、気付いておるんじゃないのかのう?」

「へ?」


 ジデジルとじいちゃんを前に、思わず変な声が出た。気付いているって? 正体って?


「それ、領主様は、私が神子だってわかってるって、事?」

「おそらくな。そう考えると、色々とつじつまが合う」


 首を傾げる私に、じいちゃんがこれまでの領主様関連の依頼をあげていった。


「いくら魔法が使えて魔力量が桁外れとはいえ、一人の冒険者に任せるには荷が重い依頼が多くはないか?」

「そう……かな?」

「普通は複数人、おそらく十人以上の団体で受ける依頼だと思うぞい」

「それに、今回の護衛依頼もそうです。おそらく、辺境伯閣下の元には、ヘデック殿下の情報も伝わっていたのでしょう。だからサーリ様をわざわざ地下牢までお連れしたんだと思いますよ」


 マジでー!?

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る