第198話 ただいまー

 途中のツェラー子爵領で若奥様を下ろし、ちょっとだけ領主様が在宅していた若奥様の旦那様に挨拶をし、やっとコーキアン領へ到着。


 馬車の旅は、何だか長く感じるわー。


「ここでいいんですか?」

「ああ。今回はご苦労だったね。依頼料の方はデンセットで受け取ってくれ。ではまた」


 領主様に砦の真ん前まで送っていただいて、無事帰宅。


「ただいまー」

「おお、戻ったか」

「ピイイ」

「オカエリー」

「お帰りなさいませ、サーリ様」


 みんなに出迎えてもらった。あれ? ジデジルはこの時間帯、大聖堂建設予定地へ行ってるはずじゃなかったっけ?


「賢者様から、今日辺りサーリ様がお戻りになられると伺い、いてもたってもおられず仕事は急遽休みました!」


 え? それいいの? まあ、現場で働いている人全員休みにしたそうだから、いいのか。ジデジルは、大聖堂建設の責任者だし。


 まだ日も高いから、おやつでも食べながら今回の話でもしましょうか。




 フィエーロ伯領であった事、ツェラー子爵領に行った事、遠心分離機や生クリーム、冷蔵庫の事などを話した。


「うーむ……それはまた……」

「ヘデック殿下、墜ちましたね」

「まあ、あやつはいずれ馬脚を現すとは思っておったがの。それにしても、大国の王族が追い剥ぎとはのう……」

「私も、地下牢で見た時にはびっくりしたよ」


 最初は誰かわからないくらい、面差しも変わってたもんなあ。すぐにわかったけどさ。


 でも、考えてみたら、なんでヘデックが北ラウェニアにいたんだろう? てっきりあのまま愛人のトゥレアと再婚したと思ったのに。


「なんでヘデックは、あそこにいたんだろうね?」

「それは、追い剥ぎをしたからでは?」


 ジデジル、あんたわかっていてそれ言ってる?


「そうじゃなくて! 何でローデンの第三王子が、北ラウェニアにいるのかって事! あのままトゥレアと再婚してウハウハしてると思ってたのに」


 あ、なんかジデジルが可哀想な子を見る目でこっちを見てる!


「ヘデック殿下の再婚は、おそらく教皇庁が認めないでしょう。その前に、ローデン王が認めないと思いますけど」

「なんで? トゥレアがマヨロス伯爵夫人だから? でも、旦那のマヨロス伯って、ヘデックの不興を買って辺境の砦に飛ばされたって聞いたけど」

「そうではなく。マヨロス伯も被害者ですが、トゥレア夫人は隣国ナシアン王国から送り込まれた間諜です」

「はあ?」


 間諜って、スパイとかそういう奴? でも、トゥレアって、普通の女性に見えたけど。


「彼女はその美貌で、ヘデック王子を……その、たぶらかすのが役目だったんです」


 はいー?




 ジデジルによれば、ナシアンは虎視眈々とローデンに取って代わるのを狙っていたそうだ。


「昔から、ナシアンとローデンは表向き同盟を結んでうまくやってきましたが、元々ナシアンの方が国土が広く、ここしばらくはナシアン優位で国の関係が成り立っていたようです」


 そこに、ローデンが勝手に神子を召喚してしまった。教皇庁にいる聖職者を買収してまで、神子召喚の秘術を盗み出したのだ。


 そこで召喚されたのが、私。ローデンは意気揚々と邪神再封印を掲げ、第三王子と共に召喚した神子を旅立たせた。


 そして、再封印は見事なされる。本当は完全浄化だけど、そこは伏せてるからね。


 そこからの二年、ナシアンとローデンの関係は逆転していた。また、神子の存在故かローデンは繁栄を謳歌し、周辺諸国はローデンに群がる事で甘い汁をすすっていた訳だ。


 これが面白くないのがナシアン。神子一人召喚したくらいで、何偉そうにしてるんだ、しかも国が豊かになりやがって。って事らしい。


「なので、まずは神子の夫であるヘデック殿下を籠絡しようという腹だったようです。お二人の間にひびを入れ、頃合いを見計らって神子様をナシアンにこっそりお迎えする予定だったんだとか」

「それ、迎えるんじゃなくて誘拐するつもりだったんじゃないの?」

「そうともいいますね。力尽くでも、とナシアン王は言っていたようですから」


 いつも思うけど、教皇庁の情報収集能力って、どうなってんの? 一国の国家機密がダダ漏れなんだけど。

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