第197話 さらばフィエーロ領

 あれこれあったけど、フィエーロ伯領でやる事は全部終わったらしいので、これで帰れるー。


「いや、なかなか有意義な時間だったよ。ではな、伯。また王都で会おう」

「陛下、閣下も、再会までご壮健であれ」

「伯もな」


 領主様、フィエーロ伯、銀髪陛下が最後のご挨拶。若奥様は個別にちょっと長めのご挨拶をしていたみたい。


 その若奥様は、今は使用人達に囲まれてる。あ、メイドさんの一人が泣いちゃった。若奥様が慰めているから、お嫁に行かれる前からの仲かな?


 ちょっとほんわかして見ていたら、いきなりフィエーロ伯に声をかけられた。


「そなたも、ご苦労だったな」

「へ? ああ、いえ。私は依頼を受けただけなので」


 普通に答えたはずなのに、何故か領主様とフィエーロ伯にはニコニコとされてしまった。


 反対に、銀髪陛下は何故かこちらを睨んでくる。はて、何かしたっけ?




 帰りは若奥様もご一緒です。途中ツェラー子爵領を経由していくんだって。


 まあ、また空を使って送っていくのもありだけど、そうすると領主様を待たせちゃうからね。


 若奥様は、空の旅をご所望だったけど。


「だって凄いんですのよ! あんな高いところをもの凄く早く進むんですもの! 馬車や馬なんて目じゃないわ!!」


 お目々キラキラさせて力説していますが、籠は譲りませんからね。大体、あの籠だけじゃ空飛ばないし。


 現在、馬車の中には若奥様と私、向かいには領主様と銀髪陛下。剣持ちさんは、現在御者席にいっている。


 おかしいなあ。本来、私がそっちじゃないのかね?


 目で訴えてみても、領主様も銀髪陛下も気付いてくれないし。若奥様は元々私を隣から離そうとしないし。


 車内の雰囲気が苦しいから、私は御者席に行きたいのにー。剣持ちさん、逃げたなあれは。


「キリナ夫人が気に入って良かった。何せ、サーリは冒険者だからね。荒事にも慣れているから、貴婦人であるあなたが戸惑わないか、心配だったんだが」


 領主様、嘘くさいですよ。最初から私に若奥様を連れてこさせるつもりだったくせに。


 でもまあ、若奥様がこういう性格でなかったら、確かに同行は無理だっただろうなあ。その場合は手紙の返事を書いてくれただろうから、結果は一緒?




 その後も車内はあれこれと話題が尽きない。特に、生クリーム。


「料理に使うというのは知っていたが、まさか甘味に使うとはなあ」

「素晴らしい味でしたわ! ぜひ! 我がツェラー子爵領でも、ククウの牧畜を根付かせてみせます!」


 若奥様、気合い入ってんなあ。まあ、生クリーム……というか、砂糖入りホイップクリームが大分お気に召した様子だから。


 その昔のフランスはシャンティイ城の料理人さん、ホイップクリームを発明してくれてありがとう。


「遠心分離機とやらは、コーキアンに戻ったらすぐに作らせよう」


 領主様もノリノリだ。でも、一つ気になってる事がある。


「あのー、生クリームについてなんですがー」

「何かね?」

「あれ、冷蔵しておかないとあっという間に駄目になっちゃいますよ」

「れいぞう……冷蔵か。冷やして保管せよという事だな?」

「そうです。あと、試食会の時も見せましたが、泡立てる時も冷やさないと、うまく泡立ちません」

「なるほど。あの時の器具も、コーキアンに戻ったら作らせなくてはな」


 器具? ……ああ、泡立て器か。私が使ったのって、茶せん型ってやつなんだよね。他にもいろんな型があったはず。


 他の形のは使った事ないけど、個人的には茶せん型が一番かなあ。


「という訳でサーリ、戻ったらよろしく頼むぞ」

「へ?」

「ああ、これは別に報酬をはずむからな」

「ぜひよろこんで!」


 現金だけど、領主様の用意してくださる報酬って、お金だけじゃないからさ。むしろ、お金積んでもちょっと手に入らないものが多い。


 そこんところ、よくわかってる人だと思うよ、本当。

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