第194話 今回の報酬

 若奥様と領主様の二人にあれこれ言われたフィエーロ伯は、考え込んだ後「少し考えさせてほしい」と言い残して部屋を出て行った。


 なんか、背中に苦労の跡が見えるんだけど……気のせいかな?


 そんなフィエーロ伯を見送った領主様と若奥様は、二人で顔を見合わせる。


「手応えはどんなものかね?」

「大丈夫です! あれはきっと落ちますわ!」

「そうかそうか! いや、助かったよツェラー夫人」

「まあ、こちらこそ、感謝の言葉しかありませんわ、コーキアン辺境伯閣下」

「閣下などと堅苦しい。ぜひジンドと呼んでくれたまえ」

「では、私の事もキリナと」


 何やら、真っ黒い笑みを浮かべてがっしり握手しているんですけど。思わず剣持ちさんを見たら、一瞬目をそらされた。


「……あの二人には、関わらない方がいい」

「ですよねー……」


 でも悲しいかな、関わりたくなくても、向こうから来るんだよなあ。


「サーリ、ご苦労だったね。報酬ははずもう。何がいい?」

「……じゃあ、領主様からの依頼を断る権利が欲しいです」

「はっはっは。サーリは冗談がうまいなあ」


 冗談じゃないですよ、と言いたいけど、これは言えない雰囲気。本来なら、一冒険者が大貴族で領主でもある人を相手に取っていい態度じゃないからね。


 まあ、もっと言うと、本来の私の立場なら、ここでこんな事に首を突っ込んでいるのはダメな感じ。


 神子って、俗世の事には極力関わらない、ってのがお約束らしい。その割には、ヘデックと結婚していたし、普通に……普通に? 王子妃もやってたよ。


 ローデンの連中は、神子をあまりありがたがってはくれなかったからなあ。だからといって、ジデジルみたいなのばかりってのも勘弁だけど。


 我が儘だよね。


 さて、領主様に報酬として何をもらおう?


「なんだ、冗談ではなく、本当に拒否権が欲しいのか?」

「へ? いや、まあ……」

「ならば心配せずともよい。そなたは冒険者なのだから、誰の依頼を受けるも受けないも、そなたの自由だ」

「えー?」

「信用しておらんのか? 本当の事だぞ? まあ、今回は緊急だった故、少々強引に頼んだ自覚はあるがな」


 そう言ってお茶目なウインクをする領主様。自覚あったんだ。まあでも、領主様の依頼って、出来ない事や本当にやりたくない事は言われないし。


 それに、何より報酬をしっかり出してくれるところがいい。お金だけじゃなく、バターとかチーズとか、私の欲しいものがわかってる感じなんだよ。


 あ、そういえば、あったね。ほしいもの。


「領主様、報酬の欲しいもの、ありました」

「おお、何かね?」

「乳を搾れる魔獣が欲しいです」

「ほう?」


 そう、牛乳……じゃないけど、ミルクがほしい。あと生クリーム。デンセットでも手に入らない訳じゃないけど、入ってくる量が少ないのか、買えない時があるんだよ。


 なので、いつでもミルクと生クリームが手に入る環境が欲しい。ミルクが手に入れば、ヨーグルトも作れるし。


 確か、牛っぽい魔獣もいたはず。大きさが象並だけど。比較的おとなしくて臆病な魔獣で、家畜化されていたはず。


「砦で飼うのかね?」

「それでもいいですけど、どこかデンセットの近くで飼育してもらって、ミルクと生クリームが簡単に手に入るようにしたいんです

「なまくりーむ、とは?」


 あれ? そこから?




 その後、ざっと簡単に生クリームの説明をして、戻ったら必ず定期的に手に入れられるようにすると約束してもらった。


 それと、生クリーム作りに手を貸してほしいとも。


 それはいいけど、あれって確か冷蔵保存しないといけないんじゃなかったっけ? まあ、こっちの世界には魔法があるから、問題ないのかも?


 とりあえず、これでミルクと生クリームをゲットだぜ!


「我が領でも、ぜひ!!」


 あ、若奥様がいるの、忘れてた。

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