第192話 バターとチーズのおかわり!
さすがにこれは即答するの、ダメだろ。思わずギヤクスさんの方を見るけど、険しい顔で首を横に振ってる。
これ、受けたら私の死亡フラグが立ちそうなんですが。
「お願いします!! 伯父様の元へ、連れて行ってください!」
「えー、いやー、そのー」
まさか、貴族の若奥様を、じいちゃん入れて運んだ籠に入れて飛ぶのもなあ……
大体、空を飛ぶにはそれなりの覚悟がいるかと。あのじいちゃんでさえ、最初の時は言葉なくして膝がくがくさせてたんだから。
よく心臓止まらなかったよね。……止まってないよね? じいちゃんくらいになると、止まった心臓でも自力で何とか復活させそうだからさ。
以前、電気ショックで止まった心臓動かすって話もしたしなあ。その仕組みも、検索先生に教えてもらいながら、何とか説明したし。
魔法士って、基本頭のいい人が多いんだ。だから、ちょっと教えるだけであれこれ理解してくれるんだよ。
そんな現実逃避をしても、目の前の若奥様からは逃れられないようです。
「若奥様。使者の方にそのような――」
「でも! ここでグズグズしていたら、伯父様が隠居しちゃうのよ!?」
「はい?」
あれ? 何で話通じてないの?
あ! そうか。ギヤクスさん、フィエーロ伯が隠居するとかその辺りの話、知らなかったんだった!
若奥様が知ってるって事は、領主様が手紙に書いたんだろうけど、貴族の若奥様宛の手紙を、使用人が見るって事はやっちゃダメな事だわ。
「若奥様、詳しくご説明願えますか?」
「詳細はこちらを」
そう言って、領主様からの手紙をギヤクスさんに渡す若奥様。この場合は読んでもいいみたい。
両手で受け取ると、その場で目を通す。読んでいくうちに、ギヤクスさんの目がカッと見開かれた。
「若奥様、急ぎ支度を。誰か! 若奥様がフィエーロ伯領へ向かわれる! 支度をなさい!!」
えええええ!? さっきまでは「絶対ダメ」って顔をしていたのに!
それに私、まだ連れて行くともなんとも言ってないよ!? あ、馬車で向かうのかな? まさか馬に乗って……はないよね?
って、思ったのに。
「使者殿。若奥様の支度が調い次第、フィエーロ伯領までの同道、よろしくお願いいたします」
「え……」
「辺境伯閣下からのお手紙にも、その旨記してございます」
そう言ってギヤクスさんが、私の前に手紙をひらりとかざす。ざっと読むと、最後の一文にこうあった。
『もし自身でフィエーロ伯の説得を願うのなら、手紙を託した使者に頼るといい。きっとこちらまで安全に運んでくれる事だろう』
領主様あああああ! 聞いてないですよ!
出来るか出来ないで言えば、そりゃ出来るんだけど。でも、事前に言っておいてほしかったわあ。
帰ったら領主様に文句言わなきゃ。いつの間にか、若奥様は部屋から消えてるし。
と思ったら、またもや猛スピードで廊下を駆けてきたらしい。
「支度はこれでいいわ! さあ、行きましょう!」
「淑女教育は、お帰りになられてからにいたしましょうか。今は時間が惜しいですね」
あ、若奥様の顔が引きつった。ギヤクスさんの淑女教育は、きっと厳しいんだろうなあ。さっきの説教も、結構なものだったしねえ。
「使者殿、お願いします」
「う、承りました」
これで「嫌でーす」なんて言おうものなら、このギヤクスさんに沈められそう……いや、実際にそうはならないんだけど、何というか、雰囲気?
諸々聞いちゃった身としては、フィエーロ伯がここで隠居はまずいんだろうなあと思うし、後で領主様におっきな貸しをつけるのも楽しいし。
まずはゴーバルのバターとチーズをおかわりかな!
とりあえず、二人だけでいいからって言って、お屋敷を出て人目に付かない場所まで来た。
「では、参りましょうか。あ、若奥様は、高いところは苦手ですか?」
「いいえ? 子供の頃は従兄弟達と一緒に木登りもしたし、今も塔のてっぺんに平気で登るわよ?」
アクティブだなあ。でも、それなら大丈夫か。
「では、何も考えずにこの籠に乗ってください。あ、荷物が邪魔でしたら、こちらで預かります」
「ええ、お願い……この籠、何?」
「すぐにわかりますよ。では」
あんまり説明すると、面倒そうなので。若奥様が籠に入ったのを確認したので、ほうきを取り出し籠の四方から伸びるベルトを引っかける。
後はほうに乗って空へ。
「まあああああ!」
籠からは、若奥様の悲鳴が聞こえた。やっぱり、怖かったかな? 風よけとかの意味もあって、ほうきと籠の周辺には結界が張ってあるから、声が外に漏れる事はないけど。
なので、籠の若奥様の事は悪いけど放置で飛ぶ。このくらいは、許されるよね?
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