第190話 手紙の配達
フィエーロ伯の説得が出来そうなのは、現状お嫁に行った養女さんだけという話。
しばらく考え込んでいた領主様が、大変いい笑顔でこちらを向きましたよ。嫌な予感しかしないいい。
「サーリ、少し頼まれてくれんか? 報酬ははずむぞ?」
予感的中ううう。これ、断れないやつだー。
まあ、領主様には何かとお世話になってるし、砦ももらっちゃったし。報酬もくれるっていうから、いっか。
「……何でしょう?」
「手紙を書くので、それをフィエーロ伯の姪御殿に届けてきてほしいのだよ」
「姪御さんって、どこに住んでらっしゃるんですか?」
「それは彼女に聞こう。そこの君、キリナ嬢の嫁ぎ先はどこかな?」
領主様が訪ねたのは、部屋の隅に待機していたメイドさんでした。いたんだ、メイドさん。
メイドさんは一瞬迷った顔を見せたけど、辺境伯である領主様には逆らえないよね。
「……ツェラー子爵家です。若君の元へ嫁がれました。ご領地にいらっしゃると聞いています」
「なるほど。後々の事まで考えての縁組みか。さすがはフィエーロ伯。ますます惜しい人材だ」
領主様、一人で納得した顔をしていますよ。
勝手に予測すると、ツェラー子爵家は国王派なのかな? フィエーロ伯家も次代では国王派になるって言っているから、先手を打ってって感じ?
「サーリ、行き先はツェラー子爵家だ。場所はわかるかね?」
「わかりません」
「地図を」
領主様の言葉に、メイドさんが無言で一礼して部屋を出て行った。そして、手に大きな丸めた紙を持って戻ってくる。
テーブルに広げられたそれは、ダガードの地図だった。
「ここがフィエーロ伯領。そしてここがコーキアン領。ツェラー子爵領は、二つの領地の間くらい、やや西よりだね」
なるほどー。確かに、ほうきを使えば二、三時間で行ける距離だわ。え? まさか、この夜中に行けと?
「あのー? 今から行くんですか?」
「まさか。明日の朝一番で行ってきてほしいんだよ」
「わかりました。手紙を届ければいいんですよね?」
「出来れば、返事をもらってきてほしい」
ですよねー。でも、とりあえず出発は明日で良かった。
おいしい夕食をいただいて、ぐっすり眠って翌朝。朝一番って、朝食前って事だったんですね。
あ、夕べの夕食は、領主様と銀髪陛下だけ、フィエーロ伯と共にしたそうな。剣持ちさんは、他の護衛兵士達と一緒。
私? 私は部屋で一人さみしく食べたとさ。嘘ですごめんなさい。優しいメイドさんが使用人部屋での食事で良ければ、と誘ってくれました。
使用人部屋はわいわいがやがやしていて、とても安心出来る場所だったなあ。
「こちらをお持ちください」
メイドさんから、バスケットをもらった。
「何ですか? これ」
「朝食を入れてあります。途中ででも、お召し上がりください」
にっこり笑うメイドさんの笑顔がまぶしい!
「ではな、サーリ。これが渡す手紙だ。それと、私の使者だと示す為の指輪だ。これを子爵の館の者に見せるといい。くれぐれもなくさぬようにな」
「わかりました」
バッグに入れると見せかけて、亜空間収納へ放り込む。これで盗まれる事もない。まあ、空を行くから、盗賊は手も足も出せないけどねー。
領主様と何故か銀髪陛下にも見送られて、フィエーロ伯の城を後にする。人目につかないところから、ほうきに乗って空へ。
領主様や銀髪陛下はほうきの存在を知ってるけど、他の人にはなるべく見せないようにって言われたから。じいちゃんからも言われてるしね。
さあ、子爵領まで一気に飛ぶぞ!
二、三時間かかるかと思いきや、ほうきのスピードが少し増しているらしい。朝食食べる前に、子爵領に着いちゃった。
小高い丘の上に座って、領を見下ろしながらバスケットの中身をいただく。
お、夕べのおいしいお肉と卵、小ぶりのリンゴ、薄切りパン。それと、小さめの瓶に詰められたサイダー。
これ、いわゆるシードルではなく、ラムネの方。フィエーロ伯領では、天然の炭酸水が出るそうな。
で、それでお酒を割ったり果汁を割ったりするのが、昔から飲まれていたんだって。
今回の瓶の中身も、リンゴジュースを炭酸水で割ったものだった。おいしい。
今度、フィエーロ伯領まで来て、炭酸水を仕入れていこうかな。あ、今回の帰りまでに、街で買えばいいのか。
朝食を終えて、子爵様のお屋敷に向かう。一番立派な建物がそれだって、道行く人が教えてくれた。
「ほー」
フィエーロ伯の城とはまた違う、綺麗な建物だ。門の真ん前で見上げていたら、門番さんにうさんくさい顔をされてしまった。
「何だ? お前」
「コーキアン辺境伯閣下の使いで参りました。家内の方に取り次ぎを願います。こちらが閣下よりお預かりした証明の為の指輪です」
ちょっと、領主様の周囲にいる人の口調をまねてみた。指輪を見せると、門番さんがひったくろうとするから、咄嗟に引っ込める。
「おい!」
「勝手に取られたら困ります。大事な預かり物なのに」
最悪さー、指輪をポッケないないされて「そんな者はここには来ていない」とか言われたら、大変じゃない。
なのに、門番さんてば頭に血が上ったようだよ。
「この――」
「そんなところで何をしている?」
おっと、門番さんが持っている槍をこちらに向けようとしていたら、彼の背後から「ザ・執事」という感じのおじいさんが出てきた。
もしかして、本当に執事さん?
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