第189話 説得出来る?

 重苦しい会談が終わった後、客間に案内された。客間っつーか、城の塔一つ丸々私達一行の為に用意してくれたらしいよ?


 そこはさすが銀髪陛下と領主様がお客なだけはある。


「それで、どうして私もこの塔に?」

「サーリは私の護衛ではないか。護衛は側を離れてはいけないよ?」


 本当にそういうもんですかね? 疑わしい目で領主様を見たら、にっこり微笑んで「フェリファーも陛下の側にずっとついているだろう?」とか言われちゃね……


 でも、剣持ちさんは貴族だけど、私は平民だよ? しかも、しがない冒険者だよ?


 それをぼそっと言ったら、何故か銀髪陛下が目をむいた。そして領主様には大笑いされた。


 剣持ちさん、あんたも笑ったのを見逃してないからね? 本当に張った結界全部外しちゃうぞゴルァア!




 それぞれの部屋に入って、ほっと一息……と思ったら、領主様からのお呼び出し。塔付きのメイドさんが伝言を持ってきてくれた。


「白銀の間にて待つ?」

「この塔の居間にあたります。ご案内しますね」


 にっこり笑うメイドさんは、可愛くて素敵ですー。ほやほやしながら案内された部屋は、居間というには豪勢な部屋だった。


「おお、呼び出してすまないね、サーリ」

「いえ……」

「少し、君にも説明しておこうと思ってね。先程の伯との会話、わからない事が多かっただろう?」

「……ありがたい事ですけど、それ、私が聞いていい話ですか?」

「構わんよ。別に秘密でもなんでもない。知っている人間は多いからね」


 そうなんだー。


 で、領主様から聞いた話は、ほぼ私が予想した通りの話だった。ただ一つ予想出来ていなかったのは、銀髪陛下とナバル殿下って、仲がいいらしいよ。


「ツエズディーロ大公ナバル殿下は、カイド陛下の父君、先王陛下の年の離れた弟君でね。カイド陛下とは十くらいしか離れていない。そのせいか、殿下はカイド陛下が生まれた時から、実の弟のようにかわいがっておられたよ」


 さて、そんな二人が何故王位争いをしたかと言えば、嫌な話だけど、どちらにも後ろにつく貴族がいたんだそうだ。


 特にナバル殿下の背後には、あまり評判のよろしくない貴族家の当主までついちゃったらしい。決して殿下本人が望んだ訳ではないのが、救いかな。


 まあ、そんなでどうしても王位争いをしなくてはならなくて、あわや継承戦争勃発か? というところで、ナバル殿下が白旗を揚げたらしい。


 そこまでいって「降参です」ってやっちゃったら、もう戦争どころじゃない。


 当然、ナバル殿下についていた貴族達はそっぽを向く人が多かったらしいけど、殿下は気にもせずに自分の領地に引きこもったという訳。


 んで、そのそっぽを向いた貴族達の多くが、現在宮廷での力をなくして隅に追いやられているそうだよ。


 それって、ナバル殿下、狙ってやってませんかね? 銀髪陛下の為に、厄介な貴族を連れて自爆って感じ?


「……ナバル殿下って、実はすごく有能な方ですか?」

「その通り。おかげでフィエーロ伯のように、殿下が栄誉を取り戻す事を諦められない者達がいるんだ」


 決して銀髪陛下が無能だというわけではない。どころか、十分有能な王様だと私も思う。


 ただ、ナバル殿下に夢を見た人達は、「あの方が王位に就いたら、今よりさらに素晴らしい国になっていたのではないか」という思いから抜け出せないんだろうね。


 それを言ったら、銀髪陛下はむすっとしていたけど、領主様はにっこり笑った。あ、これは正解を出せたな。


「まあ、頃合いを見計らって、ナバル殿下にはぜひとも中央に戻ってほしいと思っているよ。あの方は、かわいがっていた甥っ子のカイド陛下の事を、今でも心配なさっているからね。その為にも、フィエーロ伯には現役でいてほしいところなんだが……」


 あー、そこに戻っちゃうんだ。伯の決意は固そうだったもんねえ。


「どなたか、フィエーロ伯を説得出来る方は、いないんですか?」

「いたにはいたが、十年前に亡くなっている。伯の奥方だ」


 八方塞がりー。


「ご子息とかでは、ダメですかねえ?」

「うーむ。父親にとって、息子は跡継ぎとして大事な存在だが、どこか一線を引く相手でもあるからねえ」

「お嬢様とか」

「伯には娘は……いや、いたな。養女だが」


 お? なんか、領主様が色々考え始めましたよ?


「……フィエーロ伯に、令嬢はいなかったと記憶していますが」

「正確には姪だ。伯の妹が領内の騎士の家に嫁ぎ、そこで生まれた娘だが、両親を流行病で亡くしてな。その後伯が引き取り、奥方の手元で育てたと聞いてる。確か、一年と少し前に他領に嫁いだはずだが」


 へー。剣持ちさんと銀髪陛下の会話も、たまには役に立つなあ。


 でも、お嫁に行っちゃったのなら、伯爵の説得は難しいか。

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