第187話 本題

 一国の王族が、金がなくなるまで遊びほうけて、持ち金なくなったから仕方なく追い剥ぎしただあ!?


 バカも休み休み言え! いや、実際休みつつ言われても困るけど。


 私以外のメンツも、あまりの事に言葉が出ないみたい……


「……あれが、ローデンの王族なのか?」


 そうですよね、銀髪陛下。私も情けないと思いますよ。あれに比べたら、まだ銀髪陛下は頑張ってる……と、思う。多分。


 だって、しょっちゅうお仕事サボってデンセットに来てたでしょ? 最近は来なくなったけど。あれか、サボりすぎて誰かに怒られたとか。


「教育は、どうなっているんでしょうね……」


 おおう、大分湾曲表現したね剣持ちさん。本当、どんな教育を受けたら追い剥ぎになるのよ……もう。


「まあ、彼の場合は元が元だから。それにしても、お妃に逃げられてからの彼は、墜ちていくばかりだね」


 ……大丈夫だよね? 私がヘデックの逃げた妻だと、バレてないよね?


 それにしても、領主様のヘデックへの評価が厳しい厳しい。まあ、あれだけ醜態さらしたら、当然かー。


「ローデンの第三王子の妃というと、召喚された神子様ですか?」

「そうだ」


 やめて、剣持ちさん、そこ、突っ込まないで。彼は眉間の皺をさらに深くして呟く。


「……言ってはなんですが、何故神子様はあの男……失礼、王子と結婚を?」


 本当に、なんでだろうねえ? 今となってはわからないよ。おかしいなあ、一応、恋愛結婚だったはずなんだけど。


 まあ、最後は浮気されてこっちがぶち切れての強引離婚だもんなあ。城からとっとと出てきちゃったし。


 遠い目をしていたら、領主様が少し間を置いて口を開いた。


「……神子様はこことは全く違う世界からいらした方だから、我々とは違うものの見方をしているのかもしれないよ」


 そんな事ないでーす。ちょっと常識はずれるけど、いたって普通でーす。あのヘデックを見ても、アホかバカかとしか思わないもん。


 ええ、決して同情なんてしませんて。つか、本当にアホだなあ。


「ヘデック殿下といえば、先の邪神再封印の際は、神子殿と一緒に北ラウェニアに来たと聞いているが」

「そうですね。その折り、我が国よりも大陸東端の国エーメポントから魔大陸に渡られましたな」

「エーメポント? ……ああ、北ラウェニアの北北東の端にある小国か」


 銀髪陛下……それはいかがな言い方かと。まあ、確かにエーメポントは小さくて寂れた国だったけどさ。


 あれ? 私の方が酷いか……ただ、北ラウェニアの国々は、長く魔大陸から飛来する魔物に脅かされ続けた場所だからねえ。


 どうしても大きな国は作りにくかったみたい。ダガードだって、再封印目の前の二年くらい前は、ここまで大きな国じゃなかったはず。


 とはいえ、近隣では最大の国だったけど。


「さて、それはさておき、今は殿下の処遇についてですな」

「そうだな……」

「いっそ、王都へ護送しますか?」


 げ。なんてこと言うんだ剣持ちさん。まさか、領主様と一緒に連れて行こうとか、言わないよね?


「いや、それはやめておいた方がいい。伯爵、悪いがこのままあの殿下を地下牢で預かってもらえんかな?」


 ほ。良かった。フィエーロ伯も承諾してくれたし、あのままあそこでしばらく反省しているといいんだよ。


「ローデンからの使者が来たら、どうなさいますか?」

「来たら釈放して向こうに渡してくれ。面倒の種をいつまでも抱え込む必要はない。ああ、使者からはしっかり賠償金を取りたまえ。未遂とはいえ、追い剥ぎをしたのは事実なのだから」


 そうだよねー。被害者がいるもんねー。大事にならなくて良かったとはいえ、恐怖心は残るだろうしなー。


「わかりました。今回はお二方にご足労いただき、誠にありがとうございます」

「いやいや、もののついでというものだよ」


 そう言うと、領主様は組んだ手の上に顎をのせた。


「では、本題に入ろうか?」


 これ、私は部屋から出ていいんですかね?

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