第181話 護衛だってさ
ダガードの春は終わり、もう夏の気配がそこまで来ている。夏の新緑を眺めながらのお風呂、いいよなー。
砦にも大きなお風呂があるし、窓も大きくしてあるので外がよく見える。砦には外から覗かれないように術式を施してあるから、こっちからは見えても外からは見えない仕組み。
でも、砦の周辺って草原が殆どなんだよなあ。緑は湖の向こう側に小さめの森がある程度。
遠く山並みが見えるから、それを眺めつつ入ってる。現在の時刻は夕方。お風呂から上がったら、夕飯の支度するんだー。
「温泉の周囲って、山だよねえ」
金山だからね。あそこなら、新緑も綺麗だろう。
「やっぱり露天風呂は絶対だよね。和風庭園っぽくして、その中にお風呂。いい」
色々頭の中で構想を練る。こういう時が一番楽しいのかも。
「室内の浴場は広くして、天井も高く、窓も大きく。庭園は中のお風呂からも眺められるようにしてかなきゃ」
春夏はいいけど、冬の寒い時期に露天はちょっと厳しいかも。あ、でも中でしっかり温まってから出れば、大丈夫か。
昔、おばあちゃんと両親と一緒に行った温泉が良かったなあ。露天風呂の向こうに、川を挟んで山があって、新緑が綺麗だった。あれ、夏だったのかな。よく憶えてないや。
でも、あの金山に別荘を建てれば、きっとそんな感じに出来ると信じてる。
あとは、どんな浴槽にしようかな。本当は檜の浴槽を作りたいところだけど、残念ながらダガード国内に檜はなく、今のところ近場では見つからない。
検索先生、檜ってこっちにはないんでしょうか?
『探索出来る範囲にはないようです。もう少し精度が上がれば、見つけられるかもしれません』
精度ねえ。ないものは仕方ない。周囲にたくさんある石材で作るか。それはそれで、風情があっていいかも。
妖霊樹で浴槽を、とも思ったけど、今回は石材で。次に作る際には妖霊樹を使ってもいいんじゃないかな。
浴室だけでなく、別荘全体に浄化と洗浄の魔法が一定時間経てば自動でかかるよう、あちこち組まないと。掃除苦手。
その辺りは、砦でも既に取り入れているので、問題なし。後は……何かあったっけ?
『早めに建設に着手出来るよう、動くべきです』
そうっすね。今のところ手は空いてるんだから、さっさと建てちゃおうか。
現在、デンセットに依頼を受けに行く事は殆どない。お金に困ってないから。
だから、指名依頼があったら受けるって形にしている。大体私の名前を知ってるのは、領主様やこれまで依頼を受けた人達だけだからね。
で、昨日温泉別荘の事を考えていたら、翌日の朝にはローメニカさんがお迎えに来ました。指名依頼、入ったそうな。
「今回は誰から?」
「ジンド様からだ」
そっか……それは断れない。何せ別荘建てるのは領主様所持の金山だし。領主様なら、無茶な依頼も出さないしょ。
「それで? 領主様からの依頼って、どんな内容?」
「今度、ジンド様がフィエーロ伯領へ向かわれるんだが、その護衛についてほしいというんだ」
「フィエーロ伯領? 護衛?」
フォックさんによると、フィエーロ伯領っていうのはダガード王国の一番南にある領で、人の行き来が多い領地なんだって。
そこに今度、領主様が行く事になったので、その護衛をしてほしいという依頼らしい。
でも、領主様にはちゃんと護衛の人がいるんじゃないの?
「それが、魔法を使える護衛がほしいらしいんだ」
「……フィエーロ伯って人は、実は悪い人で領主様を狙ってるとか?」
「いや、伯は公明正大な方で、領民にも慕われている方だ。ただ、頑ななまでに中立派であり続けていてな……」
あー、確か、国王派と反国王派が争ってるんだっけ、この国って。で、どちらにも属さないのが中立派、と。
相手が中立派なら、余計物々しい護衛はよくないのでは?
「普通の護衛の数を減らす分、サーリの魔法に頼りたいんじゃないか?」
「あー、そういう事」
なるほどなー。見た目護衛が少ない状態で行って、相手の警戒心を解こうという作戦か。領主様も、色々考えなきゃいけないんだなあ。
「わかりました。その依頼、受けます」
「そうか。いや、良かったよ」
領主様からの指名依頼なんて、滅多な事がない限り断るもんじゃないよね。
通りすがりの冒険者ならいくらでも断るけど、この砦に根を下ろしてずっと暮らすんだもん。
やっぱ、偉い人の心証は良くしておいた方がいいと思うんだ。これも処世術って奴ですよ。
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