砦の神子様

第179話 真夜中の招かれざる客

「西の大陸にドラゴン？」

「うん」

　砦に戻ってすぐ、じいちゃんに相談。こういう事は、早い方がいいから。島のドラゴンから聞いてきた事を、全部話した。

「ふうむ。あの果実に、そんな秘密があったとはのう」

　例の果実の件も、報告報告。私達が食べると毒って事も、教えておいた。

手出さないで良かったよね。

　いや、神馬やドラゴンがあんまりおいしそうに食べるからさ。どんな味なのか気になるじゃない？

　味もそうだけど、何より魔力を補給出来るってのが、神馬やドラゴンにはありがたいらしいけどね。

「で、その西のドラゴンとやらが、ここに来る可能性があるという訳か……」

　じいちゃんは、あごひげをなでながら呟く。

「来たとしても、そう簡単に砦が落ちるとは思わないけどさあ」

「逆にお主がやり過ぎる可能性の方が高いわい」

　じいちゃん、酷くないかね？

　夕食近くになると、ジデジルが帰ってくる。

「ただいま戻りました。わあ、いい匂いですねー」

「今日は熊鍋ー」

「ほほう」

　熊肉があるからね。味噌仕立ての鍋にしてみました。野菜は根菜類をデンセットで仕入れてきた。あと、ネギっぽい野菜とキノコ類。

　豆腐がほしいところだけど、大豆はまだ収穫出来ていない。にがりに関しては、海が近いので多分問題なし。

　海水で塩を作る工程で出てくる成分だったよね、確か。なので、魔法で作る事が可能だと思われる。あー、はやく食べたいなあ、豆腐。

　大豆が出来たら、味噌と醤油も仕込もう。ちなみに今回鍋に使った味噌は、魔法で作り出したもの。

　大麦を素材にして、大豆を少しだけ作り出してそれを元に煮て潰して麹と塩を加えて発酵。全部、検索先生監修の元、亜空間収納で作りましたー。

　実はこの少量味噌、前にも作って食べた事があるんだ。邪神再封印の旅の途中だったっけなあ。

　どうしても味噌汁が食べたくなり、こっそり一人で作ってたら、じいちゃんに見つかった。

　で、口止め代わりに味噌汁出したら、じいちゃんも気に入ったみたいで、また作れー、また作れーってうるさかったっけ……

　あの時は、もう作れないってごまかしたんだった。あの時の青菜の味噌汁、おいしかったなあ。

　鍋は本当はみんなでつついて食べるものだけど、こっちにそういう文化はないから、最初から器によそって出す。

「これが熊肉ですね。ちょっと変わった味付けですが、おいしいです」

「ふむ。懐かしい味じゃのう……」

　いやいや、じいちゃん。懐かしいって……そういや、二年以上味噌味の料理なんて作ってなかったなー。

　久々の味噌味の鍋、おいしゅうございました。

　ベッドを大きめに作ってあるので、寝るときはブランシュとノワールが一緒。

　デンセットの辺りは夜になると春でも気温が低めなので、温かい二匹と一緒にぬくぬくしているのだ。

　ちょうど寝入りばな、大きな音でたたき起こされた。

「何！？　何事！？」

　急いで部屋の外に出る。私が寝ているのは丸塔の三階で、ジデジルは二階。じいちゃんは角塔の三階で寝ている。

　音は外から聞こえるので、丸塔の屋上に出てみた。ジデジルもすぐに駆け上がってくる。

「何事ですか！？」

「わかんない。今見てみようと思って……って、え？」

　屋上に出てみたら、でっかいドラゴンが浮かんでる。あれ、島のドラゴンとは違うよね？

　夜目にも鮮やかな金色のドラゴン。……おばあちゃんが見せてくれた映画に、あんなの出ていなかったっけ？　あっちは三つ首だったけど。

『はっはっはー！　そこな人間！　我に魔力の元を捧げる栄誉をやろう！！』

　……何言ってんの？　あいつ。あまりの事に、無言で金色ドラゴンを見上げていたら、相手が怒り出した。

『む！　何を呆けておるか！　さっさと我に――』

「やかましい！！　安眠妨害禁止いいいい！！」

　怒鳴って、ついでに爆発系の魔法を使ってドラゴンを吹っ飛ばす。眠い時って、色々リミッター外れるよね。

　爆発の力を使ってドラゴンを吹っ飛ばしたので、多分かなり遠くまで飛んだでしょう。これで静かに眠れる。

　角塔の屋上に出ていたじいちゃんからの視線を感じたけど、眠いのでまた明日。