第177話 大聖堂と街
ダエボ村から戻ってきたら、もう日が暮れている。組合への依頼完了報告は、明日でいいか。
「いい運動だったね」
「そうじゃのう」
熊退治ではなく、行き帰りの徒歩移動がね。ノワールとブランシュは、飛びながら、行きつ戻りつしていた。
飛ぶスピードが、大分上がってるから。ちょっと飛んだだけで、すぐ砦までたどり着けちゃう。
そういえば、ダエボ村では蜂も見てきたんだっけ。でかかった。人と契約している魔獣のせいか、意思疎通が出来るらしく、蜂にも感謝されたよ。
熊って、蜂蜜のついでに蜂や蜂の子も食べてたみたい。蜂にとって、子供を食べられるのが一番許せない事だったらしいよ。
個体数を増やす事が、蜂の存在意義だそうだから。ダエボ村にいるのも、安心して繁殖出来るからなんだって。蜂蜜は、その必要経費ってとこらしい。
魔獣の世界も色々だ。
砦に戻って、お風呂に入って一服。私もじいちゃんも熊料理をたくさん食べたせいか、お腹が空かない。ブランシュ達もそうみたいだから、今夜は夕食抜きでいいや。その代わり、ちょっとだけ甘い物を。
前に作っておいたフィナンシェの残りと、パウンドケーキの残りを夜食として出す。飲み物はコーヒー。じいちゃんはブラックで、私はミルクのみ。
「ふむ、なかなかいい豆じゃな」
「くびれで仕入れておいたんだ」
「ほほう。焙煎もいいあんばいじゃな」
あの店、当たりだったなあ。豆が切れる前に、買いに行こうっと。ほうきで本気出して飛べば、二、三時間くらいで行けるでしょ。
「あ、おいしそうなものを食べてますねえ」
あ、ジデジルだ。そういえば、姿が見えなかったっけ。食べるって言うから、彼女の分もコーヒーとお菓子を出す。
「今日のお帰りはもっと遅いかと思ったもので、教会の方で夕食をいただいてきました」
デンセットにも教会はあって、ジデジルは限定的にそこの所属って事になってるらしい。大聖堂が建ったら、そっちの責任者になるんだって。
あれ? って事は、彼女はずっとここにいるって事で……うへえ。本当、悪い人じゃないんだけどねえ……
「少しずつ、大聖堂の話が周辺の街にも伝わっていてるようです。まだ人を雇うのは先ですが、この辺りが賑わうのはいい事ですね」
大聖堂は湖の畔に建つ予定で、デンセットからは少し距離がある。でも、将来的には湖も取り込んだ大きな街になる、っていうのがじいちゃんとジデジルの読みだ。
そうしたら、砦はどうなっちゃうんだろう? ここも街中に取り込まれるのかな?
「可能性は高いんじゃないかのう?」
「でも、砦はサーリ様個人の持ち物ですから、取り込まれてもどうという事はありませんよ」
それはちょっと疑わしい。まあ、いざとなったら第三区域の壁をもっと高くするだけかな。畑に影が出来そうなら、何か工夫しないとね。
『鏡面で日光を反射するのが一番手っ取り早い方法かと思われます』
うん、検索先生、今はアドバイスはいいや。本当にそうなったら、その時はよろしくお願いします。
翌日、朝の散歩と朝食を終えてから、デンセットへ。すっかり顔なじみになった門番さんに挨拶して、組合へ行く。
「……で、またここに連れてこられる訳ですね」
「普通にカウンターに行くより、早く処理が終わるぞ。良かったな」
良くないよ! 変に目立ってしょうがない。処理が早く終わるのはいいけどさ。
フォックさんとお茶を飲んでいる間に、書類の処理が終わったらしく、ローメニカさんがやってきた。
手にはトレーと、布袋がある。
「処理が終わりました。こっちはサーリに。依頼料と、熊の買い取りのお金よ」
ダエボ村で蜂蜜に変えたのは一部だけで、仕留めた熊の半分はしっかり持って帰ってきたのだ。
それを買い取りに出したら、全部で三百万ブール。いい儲けだね。
「毛皮の状態がとても良かったから、買い取り金額が上乗せされてるわよ」
「やったー」
電撃使って良かった。内部は焦げるけど、毛皮はあんまり傷まない仕留め方だよね。しかも目とか口を狙うと、傷がさらに少なくなるという。
まあ、お金はたくさんあるから、ガツガツしなくてもいいんだけどさ。どうせなら最高金額で買い取ってほしいって思うじゃない?
「ああ、そうだ。この間捕まえた盗賊がいただろう?」
「盗賊……?」
はて、何だっけ?
「ほれ、街のすぐ側でサーリを襲った」
「ああ、あれか」
すぐに捕獲して、引き渡したんじゃなかったっけ? あの賊がどうかしたのかな?
「調べたら、流れながらあちこちで盗みや何やらしでかしていたやつらしくてな、賞金がかかってたんだ」
「本当に?」
「で、その賞金が百万ブール」
おお、また収入が増えちゃったよ。また何かで街にお金落とそうっと。
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