第176話 クマー
ローメニカさんに書類は作っておく、と言ってもらえたので、養蜂をやっている村まで来た。
「今回は近場だね」
「そうじゃのう。そろそろいい陽気じゃし、のんびり行くにはいい時期じゃな」
そう、春真っ盛りのせいか、北のこの国も日中はぽかぽか日和が多いんだよね。今日もそう。いやあ、お昼寝がはかどりそうな日だね。
「ピイピイ
「気持チイー」
「そうだねー」
今日はブランシュとノワールも、本来の大きさで付いてきている。というか、私とじいちゃんを乗せてくれてるんだよね。
私はブランシュに、じいちゃんはノワールに乗ってる。いや、乗り心地いいわ。ふわっふわ。もう最高。
「ブランシュ~、このまま飛べたりする?」
「ピイ? ピイピイイ」
「そっかー。今度空飛ぶ時に乗せてね」
「ピイ!」
任せとけ、って感じ。いつの間にか、すっかり頼もしくなっちゃって。
「ノワールモ乗セルー」
「うん、そうだね」
あー、可愛い。ああああああ可愛いいい。私、すっごく幸せだわー。
ノワールの言葉に、現在その背に乗っているじいちゃんがちょっとすねた。
「何じゃ、ノワールはわしを乗せてくれるんじゃないのか?」
「エー?」
ノワール……いや、冗談だとはわかってるけどね。じいちゃん、涙目になっちゃったよ?
養蜂をやっている村はダエボ村って言うんだって。
「あんたが、熊退治を?」
「うん、そう。その書類に、書いてあるでしょ?」
村に入って村長に会い、ローメニカさんが用意してくれた書類を渡す。これ、組合からのもので、「これを持っている人に依頼を仲介したよ」という証拠になるもの。
偽造したりしたら、重い罰が待ってるらしい。だからか、目の前の村長が唸ってる。
「いや、しかし……でも、これには確かにそう書かれているし……」
悩んでるね。まあ、熊退治を依頼したら、老人と小娘が来たら誰でも唸るかも。見た目ばっかりは、しょうがないと思うんだ。
「大丈夫。下位種だけどドラゴンも倒した事あるし」
「ドラゴンだと!? 嘘吐くな!!」
嘘でーす。本当は倒したどころじゃなく、群れ一つ壊滅させましたー。って言っても、信じてもらえないんだろうなあ。
じいちゃん、後ろ向いて笑うのやめて。
「とにかく、そちらが出した依頼を組合から受けたのは私だから。熊が出る場所はどこ?」
「こんな子供にやらせられるか!!」
頭固いおっちゃんだなあもう。どうしたもんかと思っていたら、村の奥から悲鳴が上がった。
「く、熊だあああ!!」
「何だと!?」
走る村長の後ろについて、私とじいちゃんも走る。あ、じいちゃんってばいつの間にか絨毯出してた!
奥にたどり着くと、そこにはでっかい熊がいた。
「大きいなあ」
「な! お前、いつの間に!!」
やだなあ、村長。後ろをずっと走ってたじゃない。気付いてなかったのかな? まあいいや。
「あれは私が倒すから、村人は下がらせて」
「バカ言うな! お前も――」
「下がらせて」
心配する気持ちはわかるけど、大丈夫だから。今は村長を説得する時間も惜しい。
幸い、人が捕まっている様子はないけど、熊が頭を突っ込んでる壺の中身って、蜂蜜だよね? あの壺はもうダメだろうなあ。
なので、壺には犠牲になってもらおう。
夢中で壺の中身をなめている熊に向かって、電撃一発。少し強めにしたせいか、巨体を飛び上がらせたけど、そのまま重い音を立てて倒れた。
「これでおしまい。他にも魔獣がいるようなら、ついでに狩っておくけど」
振り向いた先には、驚きに目をむいている村長と村人ずらり。じいちゃんは絨毯に乗ったまま、のほほんとしていた。
「いや、疑ってすまんかった」
「いやあ、しょうがないでしょ」
謝る村長に、笑いながら答える。うん、しょうがないよ。自分の目で見なきゃ信じられないって。
あの後、近くの森で熊三頭、大きなイノシシ六頭、でかい狸十匹程狩ってきた。全部見せたら、村長の顎が外れそうになってたよ。
現在、最初に倒した熊は村人によって綺麗に解体されている。この熊は食べられるそうだから、皆で食べちゃえって事になったんだ。
一応、討伐証明って事で村長から書類にサインと、あと熊の頭部と毛皮をワンセットにして持ってかえる事になっている。
他の獲物は、熊以外は村が買い取ってくれた。交換したのはお金じゃなくて蜂蜜だから、正確には物々交換かな。
村長や村の人の話だと、この熊は少し前から蜂蜜を狙って村の近くに出るようになったんだって。今のところ人が殺された形跡はないらしい。
「でも、このままだと確実に村の連中に被害が出ると思ったんだ」
だから、デンセットまで依頼を出しに行ったそうだよ。そりゃこんなでかい熊、普通の人じゃ狩れないよね。罠もぶっ壊したらしいし。
「さあ、焼くぞ!」
何でも、熊は焼いて食べるらしい。この辺りに自生する香草を使うと、臭みが消えておいしいんだって。
鍋じゃないのかー。ちょと残念。
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