第174話 地域活性化

 オリーブも実をたくさんつけていたので、しっかり収穫。アーモンドも再び収穫しておく。前取ったのは、全部粉にしちゃったからね……


 アーモンドは料理に使ってもいいし、刻んだりスライスしたりしてお菓子に使うのもいい。


 オリーブオイルは料理にもパンにも美容にもいいのだ。


「せっかく手に入ったんだから、オリーブオイルでヘアパックしようかな」


 オイルと水だけで簡単に出来るヘアパックがあるから、それをやってみよう。


 正直、髪や肌のお手入れには、浄化と治療の二つを使うだけでいいから楽なんだ。


 浄化で汚れを全部消して、治療で傷んだ髪の毛や肌を治す。おかげで肌荒れや手荒れ、枝毛なんかもなし。


 これ以上、パックは必要ないのでは? とも思うけど、やってみて効果がなければやめればいいし。


 要は、チャレンジしてみたいというだけの話なのだ。


「さて、オリーブもたくさんとれたねえ」

「ピイ」

「トレター」


 オリーブオイルは、果実をすりつぶして搾った果汁から採れるオイルだそうだ。種は別口だって。


 まずは実と種を分けて、果実をすりつぶし、果汁を搾る。この果汁から分離するオイルがオリーブオイル。


 面倒だから、工程の全てを亜空間収納で行い、魔法を使って抽出する。


「よし、完成」


 バゲットにバター代わりに塗ってもいいし、生地に入れてフォカッチャを作るのもいい。後は料理にも大活躍するのがこのオイル。


 デンセットでも料理用の油は売ってるけど、ちょっと臭いがきついんだよね。油に関しては、南ラウェニア産の方が質がいいみたい。


 私の亜空間収納には、大陸のくびれで仕入れた油がまだたくさんある。砦の修繕が出来るまでは、あんまり料理もしなかったから使わなかったけど。


 そうだ、今夜はフライでも作ろうかな? デンセットは湖と川があるから、淡水魚は豊富に出回ってるし。


 身の味が淡泊な白身魚が中心で、ここらでは香草と香味野菜を使って煮込み料理にする事が多いみたい。うちではフライだ。


 パン粉はデンセットで買ったパンをおろし金でおろして作成。このパン粉に、ちょっと香草を混ぜるとおいしいんだって。


 卵はあるし薄力粉もある。油はたくさんあるし、オリーブオイルも作った。


 今夜の白身魚のフライが楽しみー。あ、その前にお茶の時間にフィナンシェだ。




 ジデジルは、昼食とお茶の時間にはちゃんと砦に戻ってくる。


「これは何ですか!? とてもおいしいです!」


 ジデジル、お菓子程度で泣かないの。まだあるから。ほらあ、じいちゃんもドン引きしてるよ。


「……教皇庁では、甘い物は禁じられておったかのう?」

「そうではありませんが……こんなにおいしいお菓子は出てこないのです」


 あー、教会とかで出されるお菓子って、伝統的な焼き菓子ってのはわかるんだけど、ちょっとぼそぼそしすぎるんだよね。


 多分、油脂が足りていない。卵も。粉と甘味付けの植物とミルクでなんとか焼きましたって感じの、固いお菓子が基本だから。


 それにごくたまに、ドライフルーツがつく。教会って、大抵実のなる木を庭に植えてるから。そこからの収穫物は、神の恵みなんだって。


 そりゃ卵……といっても白身だけだけど、それにバターをたっぷり使う焼き菓子の方がおいしいでしょうよ。


 ジデジルは貴族の家出身だけど、割と早いうちに教会に入ってるから、貴族の贅沢な食卓は経験が少ないらしいよ。


 でも、教皇の側にいるんだから、それなりいい食事をしているかと思ったんだけど。


「教皇も代によって様々なのです。現在の聖下はご本人も清貧の誓いを立てられている方なので、食事も質素を好まれます」

「ユゼおばあちゃんらしいね」


 ふっくらとした顔に、いくつもの笑い皺。ユゼおばあちゃんの顔を思い出すと、心がほんのりと温かくなる感じ。


「聖下がそのような姿勢でいらっしゃいますから、下の聖職者達も贅沢はしないようにしているのです」

「表向きは……じゃろうな」

「ですね」


 じいちゃんの突っ込みに、ジデジルが苦笑い。まあ、誰しも人の目がないところでは、あれこれやるよねって事で。


「大聖堂建設、進んでる?」

「ええ。今はまだ、教会関係者でやる下準備の最中ですが、秋までには着工したいと思っていますよ」

「秋って……今まだ春だよ?」


 なんとも気の長い話だね。私なんて、砦の修繕にそこまで時間かけてないよ。一番時間がかかったのは、素材集めだったもんなあ。


「土台の調査には、時間がかかりますし、これの手を抜くと、最悪上物が傾くんです。崩壊する恐れも出てきます。気を抜けません」


 ジデジルの真剣な様子に、普段はあれでも、ちゃんと聖職者なんだなと感じる。普段はほら、あんなだから……


「大聖堂建設に、魔法は使わんのか?」

「一部は使いますが、何せダガードの魔法士の数は多くありませんから……」


 多くないというより、もの凄く少ないって言った方がいいよね。北ラウェニア大陸全体に言える事だけど、まだまだ魔法士の数が足りていない感じ。


「それに、大聖堂建設はその地域の活性化にも役立つようにしなくてはなりません。デンセットではあまり見かけませんが、少し離れた街や村では、職にあぶれる者もいると聞きます。そうした者達に働く場を与えるのも、大聖堂建設の意義なのです」


 つまり、公共事業である、と。魔法を使わずに大聖堂を建てようと思ったら、何十年どころか百年以上かかるっていうからね。


 その間、たくさんの人を雇い入れる事で、雇用が創設されて地域の活性化にも繋がるって訳か。凄いな、大聖堂って。

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