第172話 そんなものまであるの!?
ジデジルは、あれから三日後に帰ってきた。
「てか、早!」
「はい! できうる限り早く、と思って帰ってきました!」
「いや、ジデジルが『帰る』のはここじゃなくて教皇庁の方でしょうが……」
「いいえ、私が帰るべき場所はサーリ様、あなた様の元です」
うっとり笑顔で寒い事を言わないでほしい。
帰還の熱烈挨拶が済んで、ほっと一息。ダイニングでじいちゃん、ジデジル、私でお茶を飲んでいる。
ブランシュ達は庭で遊んでる最中。最近、二匹で遊ぶ事が多くて、放って置かれている私です……さみしい。
熱いお茶を一口飲んで、じいちゃんが口を開いた。
「で? 教皇庁の方はどうじゃった?」
「色々楽しい話を聞けましたよ」
ジデジルは、悪い笑みを浮かべている。あ、これ、ろくな事がないやつだ。聞きたくないけど、席を外すのもなあ。
「こちらに大聖堂を建てる事に、未だに反対している者達がいます」
「南出身の連中か?」
「お察しの通りですよ。北に建てるくらいなら、南にもう一つ二つ建てろと寝言をほざいていました」
「教皇庁も大掃除が必要なんじゃないのかのう?」
「それ、聖下も仰っていましたよ」
「ぬう」
「ともかく、南の連中がうるさくて、聖下も大分鬱憤をためていらっしゃるようでした。今回私があちらに出向きましたのも、聖下の憂いを払う為でもあったんです」
「まあ、あの婆さんが本音を吐けるのは、お主くらいじゃろうしの」
「嫌ですわ、賢者様。聖下は、サーリ様にも本音を仰いますよ」
あー、やっぱり聞かない方が良かったやつだ。何があるって訳じゃないけど、聞いたところで気分が悪くなるだけなんだもん。
てかユゼおばあちゃん、相変わらず苦労しているんだなあ。今度、何か甘い物でも差し入れに行こう。
南とか北って言ってるのは、ラウェニア大陸そのものの事。教皇庁では、今まで南ラウェニア大陸の国出身の聖職者が幅を利かせていたんだって。
でも、邪神が消えた二年前から、徐々に北大陸出身の聖職者達が盛り返してきたそうな。
ジデジルの話では、ここ半年くらいで目に見えて変わったんだって。半年かー。そういえば、私がローデンを出てからもう半年以上経ったんだなあ。
そういや、ローデンのその後が大変とか、前に聞かなかったっけ?
「ともかく、南の連中はきちんと言い負かしてきましたから、当分はおとなしくしているんじゃないでしょうか?」
「贅沢を知った連中は、元には戻れんぞ?」
「ならば切り捨てるまで。教会は清貧を旨としておりますから」
ジデジルー、にっこり笑って怖い事言わないでー。
ローデンでも、お嬢様方やご婦人方の足の引っ張り合いとか罵り合いとか、お腹いっぱいに聞いて見てきたから、そういうのはいらないよ。
翌日から、またジデジルは大聖堂建設予定地へ毎日通うようになった。私の方は食パンを焼いたりクッキーを焼いたりしてる。
パンに関しては、もう面倒なので焼く直前まで全自動で作れるよう術式を組んだ。亜空間収納内で全部終えられるので楽ちんなのだ。
そして、現在私の前には領主様からもらったゴーバル地方特産のバターがある。
「さて、何を作ろうかなあ……」
バターが決め手ってなると、パウンドケーキよりもフィナンシェの方がいいかもしれない。普通の無塩バターでなく、発酵バターを使った方がいいっていうし。
ただなあ、あれを作るにはアーモンドが必要なんだけど、この辺りじゃ見かけないんだよね。
もうちょっと、南の方でないと見つからないかな……
『アーモンドなら、魔大陸にあります』
え!? 本当に?
「本当にあるよ……」
あの後、ポイント間移動で魔大陸に移動し、いつも神馬とかドラゴンに持って行く果実の木のすぐ側で、アーモンドの木を見つけた。
アーモンドって、実を取るのに専用の車で木を震わせて落とすんだよね。
「まあ、魔法があるので問題ないですけど!」
木の上の方から実を取った。テレビで見た時も思ったけど、これがアーモンドとは思えないよね。
薄緑色の実の、一番中心の種の部分がいつも食べているアーモンド。そしてこのアーモンドを粉状にしたものを、お菓子に使う訳だ。
今回のフィナンシェでは、このアーモンド粉を使う。他にもクッキーやパウンドケーキの薄力粉を一部これに換えると、また味や食感が違うのだ。
「このくらいかな……ついでに、神馬たちの果実も取っていこうっと」
そのままドラゴンの島に持って行けば、神馬も来て仲良く分けて食べるらしいよ。
ドラゴンか……いやいや、いい肥料だとしても、それはダメ。
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