第168話 ミルク!

 フォックさんにお願いして、依頼達成報告に加えて、チーズとバターを譲ってくださいと書いた手紙を領主様に届けてもらう事になった。


「これでくれなかったらどうしよう?」

「その時は、もう一度ゴーバル地方まで行って、ニッヒ辺りと交渉するがええ」

「そうだね……そういえば、向こうで羊も見なかったしなあ」

「魔獣騒ぎがあったから、村から出していなかったんじゃないかのう?」


 そっか。あんな大きな魔獣が出てくるとわかっていたら、安心して放牧出来ないもんね。


 今はその魔獣もいなくなったから、安心して羊たちも牧草地の草をたくさん食べているんじゃないかなあ。


 そしてたくさんミルクを出して、そこからバターやらチーズを……ダメだ、頭がそこから離れない。


 だって、バターとチーズがあると食の幅が広がるんだよ? お菓子にもバターは欠かせないし。


 あ、無塩バターでないとダメなのもあるっけ。でも、大体バターは有塩だよね。どうしよう。


『有塩バターから塩分のみを抽出し、無塩バターにする事も可能です』


 え? そうなの? でも、出来れば最初から無塩の方がいい気がするんだけど……


『生クリームか絞りたてのミルクが手に入れば、バターの自作が可能です』


 本当に!? あ、でもそうだ。手作りバターがどうのって、クラスの子が話してるのを聞いた事がある。


 あの子のお母さんが作ったとか言っていたっけ。そうか、バターは手作り出来るのか……まずは絞りたてミルクを手に入れるところからかな?


 いっそ、牛か羊か山羊を飼ってみる?




 デンセットには、近場に牧畜をしている村があるそうな。そこから毎朝絞りたてミルクを市場に持ってきて売ってる人達がいるらしい。


「よし! まずは生クリームゲットだぜ!」

「何だかよくわからんが、気をつけて行ってくるのじゃぞ」

「デンセットまでだから、危ない事なんて何もないよ」


 そう言って砦を出たのになあ……何故、私の前には盗賊らしき連中がいるんだろう。しかもたったの五人。


「おら! 命がおしけりゃ金を出せ!!」


 デンセットの門はもう目と鼻の先。あ、門番の人が一人消えた。多分、組合か衛兵に知らせにいったんだなあ。


 じゃあ、目の前の連中をしめちゃっても、いいか。


「おい、何だんまりで――」


 話してる最中に、軽い電撃で失神させた。てか、こいつらってここらの人じゃないでしょ。流れ者かな?


「おーい、サーリ。大丈夫かー?」

「あ、フォックさーん。こいつら、回収してー」


 門から馬でやってきたのはフォックさんと、前にも盗賊団を捕まえた時に見た顔ぶれだ。総勢二十人。多過ぎじゃね?


「何だ、今回は随分と少人数だな」

「周囲に仲間もいないみたいだし、流れ者じゃないかな?」

「なるほど……着ているものも大分汚れて傷んでるし、どこかの食い詰めた連中が流れてきたか……」


 北ラウェニア大陸って、基本的に貧しい国が多い。土地が瘴気で穢れていて痩せているから、穀物の大半を大陸のくびれ辺りの国や南ラウェニア大陸の国からの輸入に頼っているところばかりなんだって。


 もっとも、ジデジルの話によれば、南ラウェニアもこれから大変になりそうだけど。


 ダガードに関しては、私がいるせいで穢れは大分薄くなっているし、土地の力も回復傾向にある。多分、秋の収穫は大分いいんじゃないかな。


 それに、金だの銀だのダイヤだのの鉱脈も見つかってる。これもジデジルの話が正しければ、これから先も色々出てくる可能性大。


 でも、まだ周辺諸国は大変なんだよね。食べられなくなって、国を捨てて逃げ出す人も多いらしいよ。


 今回捕まった盗賊もどきな人達も、そういう背景があるっぽい。


「あいつらはこっちで引き受けるから、心配するな。そういえば、こんな朝早くから、どうしたんだ?」

「あ。デンセットの朝市で、ミルクか生クリームを買おうと思ったんだ」

「ミルクはわかるが、なまくりーむ……って、何だ?」


 なんと、生クリームを知らないのか。まあ、フォックさんは男性だから、仕方ないのかも。


「生クリームはミルクから作られるおいしい素材だよ」

「へえ」

「という訳で、朝市に行くから、これでね」

「送っていこうか?」

「ううん、いい。走ればすぐだから」


 わざわざ馬に乗せてもらう程でもないよ。


 そうして無事、絞りたてミルクをゲットしました。これで遠心分離機を使えば、生クリームが手に入る!


 その後は無塩バターを作って、お菓子に使うのだ。前作ったパウンドケーキは、くびれの辺りで買った有塩バターを使ったんだよね。


 パウンドケーキとか、クッキーなんかは有塩でもおいしいから。甘塩っぱい感じがいいのだ。

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