第167話 いぶり出して、落とす
最後の村からニッヒさんをゴルドン村まで送ってから、放牧地へ出る。海がすぐ前に見える広々とした土地だ。
魔獣は羊を狙ってやってくる。出没する時間は、羊を放牧する時間帯、つまり日中だそうだ。
「夜行性かと思ったら、違った」
「夜行性でなくてよかったわい。夜に活動する魔獣が羊を狙ったら、村の中に入り込まれておったぞ」
それは大変。今は村の周囲に簡易の魔物よけ結界を張ってあるから大丈夫だけど、それがなかったら村が全滅していたかも。
何せ、毒持ちだからねえ。
「魔獣の動きはわかるかの?」
「うん。村々を回ったおかげで、この辺りの地図が出来たから」
私が持ってる地図の術式って、基本自分が行った事のあるところしか表示されないんだよね。
で、その地図で見てみると、魔獣が森の中でうごめいている。その数ざっと三十程。
他に魔獣らしき気配はないから、羊を襲っていた魔獣はこれだと思う。毒持ちだったら、確定だね。
「森の中にいるみたいだけど、いぶり出す?」
「そうじゃな。牧草地まで引っ張り出してもらわんと、捕獲も出来まい」
「んじゃ」
魔獣は大抵鼻がよくて、獲物の臭いを嗅ぎ分けて行動する。でも、鼻がいいって事は、臭さにも敏感に反応するって事なんだよね。
「くらえ! 臭い煙爆弾!」
命名は適当。乾かさずに火をつけると、もの凄く臭くて白い煙を出す草があるんだよね。主に魔獣を追い込む時とかに使うらしいよ。
で、それがこの辺りにも普通に生えていたので、採取しておいた。それに魔法で火をつけて、これまた魔法で森の中へ放り込んでみた。
なんか、森の方でギャインとかいう鳴き声が聞こえた気がする。
「お、来たのう」
じいちゃんがのんびり言う通り、森の方から濃い灰色の集団が走ってきた。あれ、オオカミ?
「灰色オオカミか。それにしては、大きさがおかしいのう」
「なんか、でっかいね?」
「それに、灰色オオカミは毒なんぞ持っておらんぞ?」
「……新種?」
「その辺りは、領主殿が突き止めるじゃろう。では、捕獲するぞ」
「了解!」
ちょうどいい事に、オオカミ達はこっちを餌だと思ったみたいで、まっすぐに走ってくる。
少しは罠とか警戒しようよ。まあ、オオカミ程度だと、そんな知恵はないんだろうけど。
走ってくる集団の後ろにまず網の罠、それと集団の足下に落とし穴。穴の深さは二十メートルくらい。まず、這い上がってこれない。
走ってきたオオカミ達は、先頭集団が落とし穴に落ち、中央集団が足を止めても間に合わずこれも落ちる。
後方集団だけ落ちずに済んだ……と見せかけて、後ろに仕掛けた網の罠により強制的に穴の中へ。
上からのぞき込んだら、穴の底でもがいている。
「いっちょあがり」
「後はどうやって領主殿の元まで持って帰るかじゃな」
「網でも作ってぶら下げていく?」
「そういえば、お主の亜空間収納には生き物も入れられたんじゃなかったかのう?」
「あ! そうだった」
何せ、菌類は入れられますから。あれも生きてる。
という訳で、穴の底でもがいていた灰色オオカミ亜種は、全て亜空間収納に収めて終了。
この地方の人には、ちょっと色々残る騒動だったけど、その辺りは領主様が何とかしてくれるでしょ。
ゴルドン村に寄って、ニッヒさんに挨拶してからほうきでデンセットへ。まずは組合に行って依頼達成を報告。
「なのに、どうしてまたここ?」
「サーリが絡んでいると、絶対人に聞かせられない事が出てくるからな」
フォックさん、酷くない? じいちゃん、何「我関せず」って様子でお茶飲んでるのよ! ローメニカさんも知らんぷりだし。
「それで? 魔獣は捕獲出来たのか?」
「うん。今は亜空間収納に入れてるよ」
「……は?」
フォックさんとローメニカさんが、驚いた顔で声を揃えた。そんなに驚く事?
「サーリが持っておる収納は、そこらの収納とは違うからのう」
じいちゃんが笑うけど、フォックさん達は顔色を悪くしている。もしかして、これってヤバい?
「……いい加減、慣れたと思ったんだがなあ」
「そうですね。サーリの非常識さは今更でした」
ねえ、本当に酷くない?
涙目の私を放って、じいちゃんとフォックさんで話が進んでいく。
「では、用意された囲いの中に放せばいいんじゃな?」
「ええ、魔獣用の囲いが用意してありますから、そこに」
「ふむ。今回捕まえた魔獣は毒を持っておる。近寄る時には気をつけるがよい」
「毒……ですか? オオカミ型なのに?」
「ふむ。だからこそ、領主殿も捕獲するように依頼したのではないかな?」
「そう……ですか」
とりあえず、これで依頼は達成。依頼料も支払われたし、亜空間収納の魔獣も出せたし、良かった良かった。
でも何だろう……何か忘れているような……
「あ!」
「何じゃ?」
「ゴーバル地方でチーズとバター買ってくるの忘れた!」
そうだよ、名産品なんだから、お土産に買ってくれば良かった! 村に入っても、怪我人の治療ばっかりでお店とか見かけなかったから、忘れてたよ。
悔しがる私に、フォックさんがそっと教えてくれた。
「サーリ、あの村ではチーズもバターも小売りはしていないんだよ」
「へ?」
「あの村のチーズもバターも全て領主様の元に送られるんだ。一部は税金として、残りは買い上げて、その売り上げから村に必需品を送るんだ」
「そんなあ……」
じゃあ、ゴーバルのチーズもバターも手に入らないの? 密かに楽しみだったのにい。
「領主殿に分けてくれるよう頼んじゃどうかのう?」
「……分けてくれるかな?」
「今回の依頼に満足していれば、あるいはな」
よし! じゃあ領主様のところまで行って、チーズとバターを分けてもらおう!
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