第166話 間に合った場所と、間に合わなかった場所

 怪我をした子供は、全部で八人。結構多いね。全員自宅にいるそうだ。これだけ狭い村だと、病院やら治療院はないらしい。


「じゃあ、一軒ずつ回るしかないか」


 腕の中には、少しだけ大きくなったブランシュ。ノワールも大型犬並の大きさになって、私の隣にいる。


「本当に、そのグリフォンが傷を治せるのか?」


 案内役のニッヒさんは、まだ半信半疑といったところ。まあ、いきなり「うちのグリフォン、実は怪我を治せるんですよね!」とか言われても、信じられないよな。気持ちはわかる。


 実際、治すのは私であって、ブランシュじゃないし。


「ピイイ……」

「大丈夫よ、ブランシュ。心配ない心配ない」


 うん、大丈夫。多分。何とか誤魔化せる……はず。




 最初の子は男の子で、片足がちぎれかけてた。うお……


「魔獣に噛み切られる寸前で助け出したんだ」

「毒も受けてるね」

「そうなのか!?」

「うん。じゃあブランシュ、やるよ?」

「ピイ」


 驚くニッヒさんや男の子の両親を放っておいて、男の子のベッド脇に立つ。ブランシュをベッドに下ろして、それっぽく傷の方へ向いてもらった。


 あとは、浄化と治癒を使うだけ。簡単なお仕事です。


 私には簡単だけど、これを習得しようとするともの凄く大変な修行をしなくてはならないそうな。本当、神様ありがとうとしか。


『どういたしまして。神よりの伝言です』


 ……びっくりした。こんな時に検索先生からの――じゃないか、神からのメッセージが検索先生経由で届くとは。


 男の子の方は、全体が淡く光った後に何事もなかったかのように起き上がった。まあ、失敗とかあり得ませんから。ちょっと偉そうに思っておく。


「ニッヒさん、これでこの子はもう大丈夫。次に案内して」

「あ? ああ……」


 呆然としたニッヒさんに声をかけて、男の子の家を後にする。驚いていた両親が、私の背後で男の子に抱きついていたのがちらりと見えた。


 その後も毒やらかみ傷やら千切れかけの手足やらちょっと見たくないくらいグロい傷やらを全部治療した。


 魔獣自体が毒を持ってるみたいで、噛まれた人はもれなく毒状態だったよ。


 子供だけでなく、大人も怪我や毒状態の人が多かったので、それぞれ回って治療した。


「これで終わりかな?」

「ああ……すまん、本当に助かった」

「どういたしまして」


 神様もそんな事言っていたしね。さて、これで終わりかな? じゃあ、魔獣の捕縛に行こうか。


 そう思っていたら、村の入り口付近にじいちゃんの姿が。


「あれ? じいちゃん。どうしてここに?」

「うむ、向こうでの証拠集めが終わったのでな。次は被害者側の声を聞こうかと」


 あー、そっか。フート村の連中がけしかけた魔獣で被害を受けた側の話も大事だよね。


「終わったのか?」

「うん、怪我だけでなく、毒を受けてる人も多かったよ」

「毒? そうか……で? 次はどの村に行くんじゃ?」

「へ?」


 どの村って、どういう事?


「魔獣を捕獲しに行くんじゃないの?」

「魔獣をけしかけられた村は、ここだけじゃなかろうに」

「あ」


 そういう事か。ゴーバル地方には、フート村やゴルドン村以外にも村があるんだっけ。そこでも、羊を飼ってるんだ。


「どうせなら、全部の村を回って魔獣の備えをしておいた方が良かろう」

「そうだね」


 という訳で、急いでゴルドン村の周囲に魔獣よけの結界を張っていく。簡易版だから数日しかもたないけど、魔獣は確実に防いでくれるので安心だよ。


 んじゃ、次の村に行きますか。


 ゴーバル地方の村を回る案内は、ニッヒさんがしてくれた。


「おまけに村人への説明なんかもしてくれて、助かります」

「いや、助かったのはこっちだ。あんな酷い怪我、治療代だってバカにならないってのに……」

「あー、その辺りはまとめて領主様に請求しますから」

「……いいのか?」

「大丈夫じゃないかな?」


 ダメならダメでもいいや。見殺しにする方が私の精神的によろしくない。砦にいると、あんまりお金使わないしね。


 本当は結構稼いでるから、地元にお金を落としたいんだけどなあ。少しは使ったけど、最近はあんまり。食材くらいだもんなあ。




 村によっては被害は様々だった。大人が数人、爪での怪我を負っただけだけど、その代わりに羊がほぼ全滅しちゃった村とか、羊も人も甚大な被害が出た村とか。


 中でも、毒で既に死人が出ている村もあった。生き残った人達は助けられたんだけど、亡くなった人のご家族に「何故もっと早く来なかったんだ!」って責められた時は、返す言葉が見つからなかったよ……


 そんなこんなで、最後の村を出る頃には、ちょっと私の気持ちは落ち込んでいた。


「そうしょげるでない」

「そうだぜ、サーリの嬢ちゃん。嬢ちゃんが悪いんじゃない。あの魔獣、ひいては魔獣をけしかけたフート村の連中が悪いんだからな!」

「うん……」


 確かにそうなんだけどね。でもやっぱり、浮上するにはもう少しかかりそう。


 でも、魔獣被害は待ったなしだから、捕獲を急がないとね。

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