第165話 勝手な連中

 ちょちょっと簡易自白剤を作ったので、早速フート村の若者に使ってみる。飲み薬だと嫌がって飲まなそうだったので、吸入するタイプ。


「う……」

「これで、聞いた事には素直に答えるはずだよ」


 じいちゃんと場所を交代して、尋問が始まる。


「お主らは魔獣とどう関わっているんじゃ?」

「魔獣を……他の村の羊に、けしかけて、食わせる……」


 この内容に、ニッヒさん達がにわかに殺気立つ。押さえて、どーどー。


「どうやって魔獣を誘導したんじゃ?」

「羊の……生肉を……使った……」

「ふうむ。割と泥臭いやり方だの」


 じいちゃんがしょっぱい顔をしている。生肉持って魔獣を誘導するなんて、一歩間違えば肉ごと自分が食べられちゃうのに。


 肉食の魔獣って、割と平気で人間食べるからね。


「何故、別の村の羊を襲わせたんじゃ?」

「他の村の……羊が……全滅すれば……フート村の羊の価値が上がる……から……」

「どこまでも自分勝手な奴らじゃな」


 やれやれといった風なじいちゃんに、私も頷く。危ない事やってるけど、考えなしにやってたっぽいね。


 そんな私たちを押しのけるように、ニッヒさんが話していたフート村の若者をまたしても吊り上げた。


「ふざけてんじゃねえぞ……てめえらのそんな勝手な考えで、俺達は危険な目であわされたってのかよ!」

「お、落ち着いて。ね?」

「これが落ち着いてられるか!! こいつらがけしかけた魔獣はなあ! 羊だけでなくガキまで襲いやがったんだよ! 腕や足を食われたガキは、今も生死の境をさまよってるっていうのに……それが、てめえらの村の羊の価値を上げるためだあ!? 何様だてめえらは!!」


 今にも絞め殺しかねないので、ニッヒさんには軽い電撃で眠ってもらった。


 それにしても、今の内容って……


「じいちゃん……」

「色々知れてしまうかもしれんぞ?」

「……うん」


 皆まで言わなくても、じいちゃんには通じるんだね。神子の力を使えば、死にかけた人でも治せるし、欠損部分も治せる。


 ただし、それが原因で私が神子だってバレる可能性は高いけど。それでも、子供が死ぬよりはずっといい。


 覚悟を決めたら、懐からブランシュとノワールが顔を出した。


「ピイ」

「ブランシュ、手伝ウッテ」


 二匹とも、うんと小さくなって今まで私の懐でおとなしくしていたんだ。でも、ブランシュが何を手伝うの?


「おお、そうか。ブランシュが手伝ってくれるのか」


 はて。じいちゃんが何だか嬉しそうにしてるよ。どういう事?


 わかっていない私に、じいちゃんが小声で囁いた。


「白いグリフォンの王が子供に奇跡を起こしたとすれば、お主が神子だとはわかるまい?」


 あ! そういう事か!


「ブランシュ……なんていい子!」

「ピイピイ」

「ノワールモ、イイコ」

「そうだね。ノワールもいい子!」


 あー、本当に二人とも可愛いしいい子だ。手に平サイズになってる二匹を愛でながらほくほくしていると、何だか視線を感じる。


 あ、ニッヒさん達もいたんだった。


「とりあえず、子供達の怪我を治せるかもしれないから、あなた達の村まで案内してくれないかな?」

「そうじゃな。サーリはそちらに行くといい。わしはこちらでこいつらのやった事の証拠を集めておこう」

「よろしく」


 じいちゃんなら、何かしら見つけるでしょ。私よりこういった事には慣れてるし、いざとなったらこの縛り上げている連中を「証人」として連れて行けばいいし。


 では、私は二匹と共にニッヒさんの村まで行こうか。




 ニッヒさん達のゴルドン村は、フート村から馬車で二日かかる場所らしい。でも、そんなに時間かけていられないよ。


「な、ななななな」


 ゴルドン村までの道は一本道だっていうから、馬車を持ち上げてほうきと一緒に飛ばした。


 馬は魔法で眠らせておく。でないと、パニックおこして暴れられると困るから。


 人間の方は荷馬車の荷台に乗せてそのまま移動。驚きすぎて言葉をなくすか、ニッヒさんみたいに言葉にならない声を出すかのどちらかみたい。


「あ、あそこかな?」


 道なりに飛んでいたら、先の方に村らしきものが見えてきた。ニッヒさんに確認しようとしたけど、使い物にならなそうだったので検索先生に確認。


『ゴーバル地方ゴルドン村です』


 よし。じゃあ、村の手前で馬車を下ろして……っと。


「大丈夫?」


 一応聞いてみたけど、ダメみたいだね。気付け代わりに水でもかけておこうか。


 今まさにバケツ数杯分の水をかけようとした時、ニッヒさんがようやく復活した。


「は、ははは。こんな嬢ちゃんに魔獣が倒せるのかと思ったが、心配いらないみたいだな」

「だから、倒すんじゃなくて捕獲しに来たんだっての。全部捕獲していいみたいだし、領主様に持って行かなきゃ」

「そうか……そんな事も出来るのか……ははは」


 なんか、まだ壊れてるみたい。それよりも、怪我をした子がどこにいるか、教えてもらわないと。

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