第164話 そうだったのか

 道からちょっと場所を変えて、ゴルドン村の人達が乗ってきたっていう荷馬車の側で立ち話。いや、座る場所、ないからさ……


「元々は、フート村の独断で話しが進んだんだ……」


 話し始めたのは、ゴルドン村の若手組と呼ばれる集団の代表を務めるニッヒさん。若手組って、一応各村にある正式な組織らしいよ。


 十五歳以上三十歳未満の男性のみが入るもので、各村の組には代表がおり、月一程度でその代表が集まる会合が開かれるんだって。


「本来なら、魔獣被害の事も会合で話し合うべきものだったんだ。なのに、フート村の奴ら、勝手に自分達でどうにかするって言い出しやがって……」

「はて? 実際にはフート村の村長から、領主殿に魔獣被害の訴えが来たと聞いておるが?」

「フート村の村長は、ゴーバル地方を束ねる人だ。だから、魔獣被害を危険なものと判断したんだろうよ」


 んー? 村長と若手組とかいう組織は、別で動くって事? んで、フート村の若手組は、突っ走って村長の言う事も他の村の代表が言う事も聞き入れないって感じかな?


 あれ? って事は――


「さてさて、フート村の連中はどうしてそう、余所者を嫌うのかのう」


 だよねえ。ってか、ゴルドン村の人達は、余所者差別はしないのかな?


 首を傾げる私たちに、ニッヒさんが苦い顔で教えてくれた。


「余所者を嫌うのは、この辺りの風習だ。ここらは魔物被害は少なかったんだが、デンセット辺りから流れてくる余所者が多くてな。そいつらが、悪さをする事が多かったそうだ」


 なるほど、昔来た余所者が悪い事ばかりしたから、余所者なんて来るなーって事になった訳か。


 あれ? じゃあどうやって特産のチーズやバターを出荷するの?


 ニッヒさんに聞いたら、それらは税金として領主様に納めるんだって。多めに納めるけど、その代わり領主様からはこの辺りでは出来ない作物や穀物を援助してもらえるそうな。


 一応、持ちつ持たれつ?


「それもあって、余所者がこの地方に来る事自体、珍しいんだよ」

「へー。でも、なんでフート村の人達は、そこまで頑なに自分達で解決する! って言ってるの?」


 ニッヒさんに聞いてみたら、なんか汚いものでも見るような目で、フート村の連中を見た。


「さあな。それはそこにいる奴らにでも聞いてくれ」


 実はあの後、暴れる彼等を縛り上げて、騒ぐから口を布で覆ってるんだよね。うめき声は聞こえるけど、言葉として意味をなさない状態。


 でもこの布を外すと、またうるさくなりそうだし。


「まあ、わしらに魔獣を狩られては困る理由でもあるんじゃろ」


 じいちゃんののんびりした言葉に、私もニッヒさん達もびっくりした。え? それどういう事?


「フート村の若い連中が魔獣を飼ってるとは思わんが……それに近い事をしていたりしてなあ?」


 だからじいちゃん、そういう顔は悪役がするものだってば。すんごい悪い顔つきで笑ってるよ。


 フート村の人達も、なんか凄くおびえてるじゃない。


「まさか……お前ら、そうなのか!?」


 ニッヒさんが、縛り上げた一人の胸ぐらをつかんで宙づりにしてる。凄いな、あの腕の力。吊り上げられた方は、足をばたつかせてるわ。


「お前ら、自分達の村さえ助かりゃそれでいいのかよ!!」

「……じいちゃん、どういう事?」

「おそらくじゃが、フート村の若者が魔獣を他の村の羊にけしかけておるんじゃないかのう」

「え? そんなことしてどうするの?」

「自分達の村だけ、特産品を独り占め……といったところか」


 えー? それって、フート村以外の村の人達はどうするのさ。


「ふざけんじゃねえ! 羊はゴーバル地方の宝だ! お前らだけのものじゃねえ!!」


 そう言って、ニッヒさんは吊り上げたフート村の若者を殴り飛ばした。いや、本当に飛んだよ。凄いな、あの腕。


 肩で息をするニッヒさんは、足下に転がっている残りのフート村住人を睨み付ける。次は誰が殴られるか、フート村の住人は、恐怖で縮こまってた。


「そこまでにしておけ」

「止めるな! じいさん」

「いや、こいつらのやった事の証拠を集めて、領主殿に報告しておいた方が良かろう。その為の、討伐ではなく捕獲なのじゃろうから」


 え? そうなの?




 さて、縛り上げたフート村の連中から何か情報が引き出せないかと、検索先生に相談したところ、簡易自白剤のレシピを教えてもらいました。


 何々? この地方に生えている紫カネキリソウとカツラダマシ、あとヒツジソウって植物が必要なのか。


 残りは亜空間収納に入ってるって? じゃあ、この三つを揃えればいいんだ。


「ねえねえ、この辺りで紫カネキリソウっていうのと、カツラダマシ、ヒツジソウって野草が生えてるところ、知らない?」


 こういうのは地元の人がよく知ってるだろうと思ってニッヒさん達に聞いたら、みんなして顔を青くしてるんだけど。なんで?


「嬢ちゃん、なんでそんな毒草ばかり欲しがるんだ? まさか……」


 いやいやいや、ニッヒさん、そんなフート村の人達を見下ろさないでよ。別に彼等を毒殺しようとかしてないから。


 フート村の人も! あんたらが私達を殺そうとつけてきたんでしょうが!


「なんか腹立つ」

「それで、その毒草を集めてどうするつもりじゃ?」

「別に毒薬は作らないよ。何でも話してくれる薬を作ろうかと思って」


 ……何だろう、ニッヒさん達からの視線が微妙なんだけど。

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