第163話 挟まれた!

 村長の家を出て、村の外まで行く。ヨアゼが先導してくれてるせいか、村人の視線は突き刺さるけど、文句を言ってくる人はいない。


「石でも投げられそう」

「まさか、そんな……」


 ヨアゼの声が、尻すぼみになってる。まあねえ、周囲の雰囲気からは、本当にこっちに攻撃してきそうだし。


「まあ、そうなったらそうなったで、反撃するまでじゃろ」

「うん」

「え?」


 私とじいちゃんの会話に、信じられないという顔をするヨアゼ。え? 何で? 攻撃してくる人がいたら、おとなしく逃げたりしないよ?


 やられたらやり返せ。私がこの世界に来て覚えた事の一つだから、これ。日本にいた頃は、やり過ごす事の方が多かったんだけどなあ。


 こっちだと、やり過ごそうとすると相手がさらに強気で来ちゃうからね。だったらこっちも最初から全力で相手しておいた方が、楽なんだ。


「とりあえず、案内は村の入り口まででいいからね」

「え? でも――」

「魔獣の住処は、こっちで探すから」


 実は、もう地図に反応が出ています。さすがです! 検索先生。


 ついでに、村の中で妙な動きをしている連中も、ばっちり地図で確認完了。


「じいちゃん、地図にあれこれ出てる」

「よしよし。後でな」

「うん」


 そんな事をこそこそ言い合いながら、ヨアゼの後ろを歩いて村を出た。背中にまで、村人達の視線が突き刺さるわー。




「それにしても、何がそんなに気に入らないんだろうね?」

「さてのう。ああいいった連中の考える事なぞ、わしらにはわからんて」

「そっかー」


 話しながら村から伸びる道を、じいちゃんと話しながらのらくら進む。このまま進むと羊の放牧場に出るみたい。地図だとそうなってるね。


 そして、私達の後をつけてくる人達。それと待ち伏せしている人達。同じ集団なのかな? それとも別グループ?


『追跡組がフート村の村民で、待ち伏せ組がここから一日の距離にあるゴルドン村の村民です』


 別グループって事かな? 追ってくる連中は危害を加える気満々の赤表示。でも、待ち伏せは黄色状態か。敵でも味方でもない場合、この色になる。


「とりあえず、後ろの連中を排除する?」

「まあ、待て。待ち伏せの連中と鉢合わせさせてみんか?」


 だからじいちゃん、その笑い方悪役みたいだってば。


 道を行くと、とうとう待ち伏せ組が出てきた。それに合わせるように、追跡組も出てくる。


 図らずも、鉢合わせになったなあ。


「何じゃ? お主ら」


 わかってるくせに、じいちゃんてば役者だのう。とりあえず、待ち伏せ組の方から聞く。


「我々は、ゴルドン村から来た者だ。あんたらが、デンセットから来たっていう冒険者か?」

「いかにも。よくわかったのう」

「この辺りでは、余所者なんざ見ないからな」


 という事は、デンセットから魔獣討伐――本当は捕獲だけど――を請け負う冒険者が来るっていうのは、周知されてたって訳か。


「で? そのゴルドン村の者が、わしらに何の用かのう?」

「……あんたら、羊を襲う魔獣を狩りに来たんだろ?」

「捕獲なんじゃが……まあよい。確かにここらの魔獣を消しに来たのう」

「頼みがあるんだ! うちらの村の魔獣も、どうにかしてくれ!」

「ほ?」


 え? どういう事?


 じいちゃんと二人で首を傾げていたら、背後から追跡組が声を荒げた。


「おい! 何勝手な事言ってる! 余所者なんぞに頼む事じゃねえだろ!」

「うるせえ! お前らに何が出来るってんだ! オナキドリ一羽にすら逃げ出す腰抜け野郎共が!!」

「何だと!!」

「何だよ!!」


 あーらら。私達そっちのけで、二組での喧嘩が始まっちゃった。どうしよ? これ。


 結構筋肉ついてる腕で、ぼこすこ殴り合ってるんですけど。見てるだけで痛そう。


 あ、ヤバい! フート村の連中が刃物取り出した!


「えい!」

「どうああああ!!」


 全員の頭上から、大量の水をぶちまけてみました。こっちには引っかからないよう、ちゃんと防御済み。


「少しは頭を冷やしなさいよね!」


 同じ地方の者同士、殺し合ってどうするのよ。ってか、フート村の連中はあの刃物、私達に向けるつもりだったな?


 という訳で、フート村の連中には追加で冷たい水をかけておきました。春先とはいえ、まだちょっとこの辺りは肌寒いから、いい刺激になったでしょ。


 ちょっと震えてるみたいだけど、気にしない気にしない。

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