第162話 やな感じー

 何とか泣き止んだ女の子――名はヨアゼの案内で、村に入る。なんか、周囲からの視線が突き刺さるよ?


「すみません。村の人達、余所から来た人の事は、とても警戒するんです」

「悪い意味での村社会じゃのう」


 あー、狭い社会で全てまかなえるから、閉鎖的になってるんだ。あれ? でもゴーバル地方のチーズやバターって、輸出品になるんじゃなかったっけ?


 首を傾げている間に、村の一番奥にある大きな家の前に来た。


「ここが村長の家です。どうぞ」


 おや、もしかして、ヨアゼは村長さんの身内? 娘か孫かな?


 村長宅は入ってすぐの玄関ホールを左に行くと、広い部屋に出た。ここ、村の集会所としても使っているらしい。


「こちらでお待ちください」


 そう言い残して、ヨアゼは部屋から出て行っちゃった。仕方ないので、私とじいちゃんは亜空間収納から椅子を出して腰を下ろした。


 何で椅子が収納に入っているかって? 邪神再封印の旅で使っていたのが、処分せずに入っていただけ。


 お茶もだそうかなあ、と思っていたら、ヨアゼが戻ってきた。


「お待たせしました」

「お前さん方が、デンセットから来た冒険者かの? わしがこの村の村長をしておるクバルじゃ」


 ヨアゼの後ろにいる、年配の男性が村長だって。なんか、じいちゃんよりも年いってそう。


 杖をつきながらよたよたと入ってくる村長に、ヨアゼが手を貸している。一人で歩くのも辛そうだなあ。


「見たところ、魔獣を倒せそうには見えんが……」

「倒すんじゃなくて、生け捕りにしろって依頼を受けてるよ? あ、これ。デンセットの組合からのお手紙」


 やっとローメニカさんから渡された手紙を出せるよ。亜空間収納から出したから、二人がちょっと驚いているけど、手紙は本物だよ?


 いや、収納が偽物って訳じゃないけど。なんかヨアゼが「手品?」って驚いているから。


 村長は手紙を開封して読み進め、終いには重い溜息を吐いた。


「あんなものを生け捕りさせようとは。ジンド様も、何を考えておられるのやら……まあよい。わしらとしては、あの魔獣がいなくなれば何も言う事はないんじゃ。よろしくお願いする」

「お願いします」


 うーん、この二人はそう言っても、他の村人があれじゃなあ。あの人達、村の外の者が問題を解決する事自体、納得いってなさそうなんだけど。


「失礼じゃが村長。この村は大分余所者に厳しい場所のようじゃのう?」

「……村の者が、失礼をした。どうか許していただきたい」


 そう言うと、村長は立ったまま腰を折って頭を下げる。そのままぐらりと倒れそうになったから、思わず魔法で支えちゃった。


「大丈夫?」

「いやいや、重ね重ね申し訳ない。年のせいか、足下がのう」

「座った方がいいよ。椅子、いる?」

「あ、それは私が」


 そう言うと、ヨアゼが部屋の隅から椅子を持ってきた。あ、ちゃんと自分の分も持ってきたね。


 腰を下ろした村長は、またしても重い溜息を吐く。


「村の者は、殆どがこの村しか知らんのじゃ。余所者を嫌うのも、要は自分達と違う者を怖がっておるに過ぎん。とはいえ、あんた方に不快な思いをさせたのは事実。どうか、許していただきたい」

「それは、あんまり気にしてないからいいよ」


 嘘だけど。でも、ここで「めちゃめちゃ気分悪いから、このまま帰る!」とか言えないし。


 遠いデンセットにまで助けを求めるって事は、自分達で魔獣を狩る手段がないからなんだろうな。


「じゃが、他の者達はわしらが動く事を受け入れておるんか?」

「それは……」


 じいちゃんの質問に、村長が口ごもる。それ、受け入れていないって言ってるようなもんだよ。


「最悪、わしらの邪魔をする者がいた場合、それなりの対処をするが、構わんか?」


 じいちゃん、なんか悪役みたいだよ? 村長の方も、何も言えなくなっちゃってるじゃん。


「よかろう」

「え? いいの?」


 しまった。つい口から出ちゃった。悪かったから、そんなに睨まないでよじいちゃん……


「……先ほどのやり取り、こちらで魔法記録を取っているが、問題ないかの?」

「構わん。何よりも、あの魔獣を何とかしてくれんか。あれに羊たちが襲われるのは困るし、村に来られるのも困るんじゃ」


 魔獣は、羊を襲うタイプらしい。って事は、肉食かー。羊を襲うのはオオカミって相場が決まってるけど、オオカミタイプなら有名だから今更研究って事もないだろうし。


 本当、どんな魔獣なんだろうね?

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