第161話 ゴーバル地方

「え? では、サーリ様はしばらく砦を留守になさると?」


 ローメニカさんが来た日の夜、夕飯時に依頼でゴーバル地方へ行く事をジデジルに伝えた。


 ちなみに、じいちゃんには先に話していて、一緒に来てくれる事になっている。その事も、ローメニカさんには連絡済み。


「うん、仕事だからね」

「そうですか……」

「という訳で、私とじいちゃんは明日の朝食後、ゴーバル地方に行ってくるね」

「お帰りはいつぐらいになりそうですか?」


 帰り? 帰りかあ。今回は狩りじゃなくて捕獲だからねえ。時間かかるかも?


「うーん、どうかなあ?」

「サーリの事じゃ。即日帰る事になるじゃろうよ」


 ちょっとじいちゃん。どういう言い草だ。じろりと睨むも、じいちゃんはどこ吹く風といったところ。全くもう。


「私も行きたいところですが、明日は領主のジンド卿がいらっしゃるそうですから、席を外すわけにもいきませんし……」

「うん、ジデジルは自分の仕事を頑張るといいよ!」


 大聖堂を建てる為にここに来たんだからね。……そうだったよね?


 私の言葉に、何故かジデジルは感動している。


「サーリ様……何とありがたきお言葉! このジデジル、粉骨砕身して必ずや歴史に名を残す大聖堂にしてみせます!!」

「う、うん。頑張れ」


 単純に、着いてきてほしくないから言っただけなんだけどなあ。人はいいけれど、ジデジルはずっと一緒にいるにはちょっと鬱陶しいから……


 翌朝、朝の散歩と朝食を終え、早速ゴーバル地方へ飛ぶ事にした。街道を使うと、山を迂回するので結構時間がかかるらしい。


 私の場合はほうきがあるからね。じいちゃんも絨毯があるし。


「じゃあ、行ってきます」

「お気をつけて。お帰りをお待ちしております」


 ジデジルに見送られて、空の旅へ。




 ダガードでも北西にあるというゴーバル地方は、海岸よりの地方だった。狭い砂浜ギリギリまで草原が広がっていて、そこ全てが羊型魔獣の放牧地らしい。


「とりあえず、フート村の村長に遭いに行くんだっけ」


 フート村は、ゴーバル地方の中心的存在の村だ。他にも人が住んでる村はあるんだけど、フート村が一番大きいんだって。


「ローメニカから預かった手紙、忘れてはおらんじゃろうな?」

「ちゃんと収納に入ってますう」


 昨日目の前で亜空間収納に入れたじゃん。じいちゃん、もうボケちゃったの?


「誰がボケたじゃ!」

「えー? だってー」

「確認しただけじゃろうが!」


 しょうがないなあ。じゃあ、そういう事にしておいてあげるよ。


 フート村は、放牧地からずっと内陸に入ったところにある。石造りの村で、低いけど石積みの壁があった。


 でも、壁は結構ボロボロだね。一瞬魔物の被害に遭っていたのかな? とも思ったけど、魔物が来てたらこの程度じゃ済まないはず。


 じゃあ、噂の魔獣にでもやられたかな?


「すいませーん。村長さんのお宅はどちらですかー?」


 通りがかった村人らしき人がいたので、声をかけてみた。なんか、こっちをじろじろ見回して、感じ悪い。


「……余所もんか。帰れ帰れ! ここは、お前らのような連中が来る場所じゃねえ!」


 えー……? 何あれ?


「どうしよう? じいちゃん」

「もう少し、聞いてみるか。どれ、次はわしが聞こう」


 再び通りがかった村人らしき人にじいちゃんが尋ねたけど、結果は同じ。


「あんたみたいな爺が来る場所じゃねえ!」


 こういうの、けんもほろろって言うのかな?


 でも、参ったねえ。困っていて領主様に助けを求めたのって、ゴーバル地方の人達じゃないの?


 村はずれでじいちゃんと二人、顔をつきあわせて悩んでいたら、私と同年代くらいの女の子が声をかけてきた。


「あの、間違っていたらごめんなさい。お二方は、デンセットから来た冒険者の方ではありませんか?」

「そうだけど……」

「ああ、良かった! 本当に、来ていただけたんですね!?」

「え、ちょ、ちょっと」


 感極まったのか、女の子はその場で泣き出しちゃった。これ、どうすればいいの? じいちゃん、目をそらさないでよ。


 こういう時こそ、老人の知恵とか見せるべきじゃない?

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