第160話 指名依頼だって

 オーブンでの初焼きは、鶏肉となりました。


「おおー、こんがり焼き色がついておいしそうー」


 レシピ提供は検索先生です。先生! いつもありがとう!!


「素晴らしい焼き色ですね! さすがサーリ様です!」


 そして、何故か食卓にはジデジルもいたりする。おかしいなあ? あなた、大聖堂建設の為にここに来たんだよねえ?


 ちなみにこの鳥、近場で自分で取ってきました。魔獣でオナキドリというらしい。すっごく汚い鳴き声の鳥だからこの名前が付いたんだって。


 確かに、酷い鳴き声ではあったな。夢に見そうで嫌。でも、お肉はおいしそう。検索先生曰く、美味な肉だそうな。


 今回は亜空間収納の中で羽をむしって内臓を取り出した後、野菜を詰めて丸焼きにしてある。これ、お米を詰めてもおいしいんだって。


 これは張り切って米の栽培をするべきところでしょう!


「じゃあじいちゃん、切り分けて」

「任せておけ」


 こういう肉の切り分けは、男の人の役目だっていうから、じいちゃんに。じいちゃん、うまい事切り分けていくなあ。


 さすがは「任せておけ」とか言うだけある。うん。


 そして鳥の丸焼きはおいしかったです。結構大きかったので、三人でお腹いっぱいになるまで食べたとさ。




 朝の空中散歩、最近はブランシュとノワールがもの凄いスピードですっ飛んでいく。


「あーあ、また二匹だけで行っちゃったよ」

「まあ、あやつらも親離れの時期じゃろうて」

「なんか、さみしい」

「二匹の成長を喜んでやらんか」


 えー? だって、さみしいものはさみしいもん。


 まあ、ノワールはまだしも、ブランシュは本当の親離れまでまだ大分間があるけれどね。でも、もう大分大きくなったよなあ。


 白いグリフォンは、王になる個体だったっけ。いつかは、ブランシュもグリフォンの元へ帰してあげないとね。


 やだ、本当にさみしい。


「何を泣いておる? 親離れしたからといって、二匹と永遠に会えなくなる訳じゃなかろうに

「そうだけど……そうなんだけど!」


 それでも、別れが近づいているような気がして、涙が止まらなくなった。


 結果、砦に戻ってじいちゃんがジデジルに怒られる事になるとは。


「賢者様? どうして神子様が泣いておられるのですか?」

「いやいやいや、呼び方が戻っておるぞ? それに、その迫力のある笑みはやめんか!」

「訳を話していただけるのでしょうねえ!?」

「うひい!」


 何とかジデジルを押しとどめた。じいちゃんには悪いけど、おかげでさみしさが吹っ飛んだよ。ブレない人の存在って、たまには大事なんだね。




 日中、ジデジルは砦を留守にして大聖堂建設予定地へ赴く。砦に残るのは私とじいちゃんと二匹だけ。


 そんな砦に、来客があった。


「あれ? ローメニカさん? いらっしゃい」

「こんにちは、サーリ。ちょっと、いいかしら?」


 ローメニカさんの微妙な態度に内心首を傾げながら、いつものように角塔の居間へと招き入れる。


 もう、彼女くらいになると半分身内な感じ。


「それで? 何かあったんですか?」

「うん、一件、指名依頼を受けてもらえないかしら?」


 指名依頼っていうと、依頼主が「あの人に頼んで」って指名してくる依頼だよね。まんまだけど。


 私の事を知ってるって事は、フォックさんか領主様、銀髪陛下くらいしか思い当たらないんだけど。


 それを言うと、ローメニカさんが苦笑した。


「その、領主様からのご依頼よ」

「それで、どんな依頼なんですか?」

「その前に、コーキアン領の北西の方って、どんなところか知ってる?」


 知らない。ので、素直に首を横に振っておいた。


「ゴーバル地方って言ってね、牧畜が盛んなの。羊型の魔獣を家畜化して飼っていて、主にミルクから作るバターやチーズを生産しているの。どちらもその地方の名産品よ」

「へー」


 羊のバターか。デンセットに出回っていたっけかな? 一番多くて安いのは、牛型魔獣のミルクから作られるバターだけど。


 コクがあって、私は好き。今度、生産元に行って生クリームが作れないか相談したいなあ。


 ミルクそのものはあまり出回っていない。何でも痛むのが早いらしく、生産農家でしか飲めないんだとか。これも要相談だな。


「でね、ここからが本題」


 おっと、ローメニカさんから話しを聞いてる最中だった。


「そのゴーバル地方で、厄介な事が起こってるの」

「厄介?」


 ローメニカさんは一つ頷くと、詳しい事を説明し始める。


「元々ゴーバル地方にはあまり魔獣はいなかったんだけど、ここのところやけに増えてきているそうなの。もしかしたら、魔物が消えた影響かもしれないわね」


 あー、魔獣も魔物には勝てないから、逃げ出すんだよね。でも、その魔物は消えた。


 となれば、魔獣にとって怖いのは自分たちを狩る存在だけって訳か。


「ゴーバル地方には、あまり戦える人がいないの」

「それで、デンセットまで話しが回ってきたって事?」

「元々、デンセットの組合って、領内の面倒事を一手に引き受けているようなところがあるから」


 ローメニカさんは苦笑するけど、それもどうなの? 普通なら、領主様がいる領都の組合がやるべき事なんじゃないのかな?


 まあ、組合事情なんかに首を突っ込む気はないので、流しておこうっと。


「それで、サーリにその魔獣の捕獲をお願いしたいの」

「捕獲? 討伐じゃなくて?」

「どうもね、あまりここらでは見かけなかった魔獣らしくて、領主様がご自身の手元で研究させたいって仰ってるのよ」


 それで生け捕りにしろと。なんでこの依頼が私に来たのか、わかってきた。


 私以外にも、魔獣を狩れる人はいるし、何なら数人で組んで狩りをしてもいい。


 でも、生け捕りとなると、出来る人はそういないって事だ。


 それにしても、見かけない魔獣って、どんなのだろうね?


『この依頼を受ける事を、強く勧めます』


 うお! 検索先生から、いきなりのお勧めが来た! という事は、受けないとダメな流れだなこれ。


「わかりました。受けます」

「本当に? 良かったー。これで領主様にいいお返事が出来るわ」


 いくら気さくな領主様とはいえ、身分が上の人の「お願い」をきけなかったとなると、色々とあるからね。大変だってのは、凄くわかる。


「いつ行けばいいんですか?」

「なるべく早く、お願いできない? ゴーバルのチーズもバターも、いい輸出品なのよ」


 なるほど、お金稼ぎのエースと言ったところか。大聖堂も建てるし、復興もまだまだ必要だし、お金はいくらあってもいいもんね。


 あ、私も大聖堂建設に寄付しようかな? ああいったのって、個人でもお金出していいはずだから。


 一定額以上建設に寄付すると、大聖堂の壁に名前を刻んでもらえるらしいよ。そういうの、良くね?

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