第159話 魔法のオーブン

 大聖堂をコーキアン領のどこに建設するのかと思いきや、何と湖を挟んだ砦の対岸。水上を使えば、ここまであっという間に来られる場所。


「ジデジル……狙ったのかな?」

「まあ、当然じゃろうな」

「うえええ」


 本当にもう、あのストーカーどうしてくれよう。


 ジデジルは、現在砦に滞在している。追い出したかったんだけど、彼女、奥の手を出してきた。


「こちらを。教皇聖下からのお手紙です」


 にこやかに彼女が手渡してきた手紙には、ジデジルの事をよろしくという一文と、この地に大聖堂を建てる意義、その為にもジデジルを馬車馬のごとく使い潰せと書いてあったのだ。


 ユゼおばあちゃん……使い潰せって……ジデジルはこれでも教会のお偉いさんなのに。


「もしかして、ユゼおばあちゃんもジデジルの事、持て余してるのかな?」

「というより、お主が関わると途端に張り切りよるからな。その力を正当な事に使わせようという苦肉の策じゃろ」


 ジデジルって……まあ、彼女の扱いがアレなのは、今に始まった事じゃないからいいか。


 そのジデジルは、朝食後デンセット経由で大聖堂建設予定地へ。まずは下見だってさ。


 朝の空中散歩にも同行したがったけど、彼女飛ぶ手段を持ってないからね。じいちゃんに食い下がってたなあ。


 お願い、じいちゃん。ジデジルに空飛ぶ絨毯は作らないで。朝の一時くらい、あの暑苦し……プライベートタイムを確保したい。


 大聖堂の建築って、よく知らなかったけど本当に一から決めてくんだね。建設予定地から規模から建築意匠から何から何まで。


 てっきり基礎部分は既に決まっているのかと思ってた。


「そうなりますと、教皇庁からの押しつけという事になってしまいますから」


 あー、なるほど。ダガードの人達もプロジェクトに参加させないと、「自分たちの大聖堂」って意識が薄れるんだ。


 教皇庁も大変だね。しかも、総責任者がこの人だもんな……


 いや、ジデジルは優秀な人なんだけど、何故か神子関係だけは頭のネジがまとめて吹っ飛ぶ仕様だからさ。


 ちらりと見た当の本人は、凄くやる気に満ちている。


「サーリ様のお側にいられるのですもの! やる気も違います!!」


 ああ、そうですか……なんだろう、このやる気の無駄遣い感。




 さて、しばらく地下は封印しておく事にして、地上の方をもう少し手を入れようと思う。


 具体的には、台所に! やっぱりね、亜空間収納で焼成するのは味気ない気がするんだ。


 なので、温度調節、タイマー機能付きの魔道具オーブンを作ろうと思う。これからあれこれ作りたいし。


 日本であったような、便利機能はまあ置いておいて、とりあえず試作機だからシンプルにいこう。


『オーブンにも、ドラゴンコンクリートを使用する事をおすすめします』


 お、検索先生からだ。オーブンなのに、コンクリート? 普通は石材かレンガじゃないの?


『ドラゴンコンクリートは魔力によく馴染み、機能も多く付与する事が可能です。成型も楽かと思います』


 そっかー。じゃあ、ドラゴンコンクリートを使ってみよう。ちなみに、使うのは下位種ではなく上位種のドラゴンのやつ。


 割合は爪が三に牙が四、残りの三は下位種ドラゴンの骨の灰か。それらを混ぜて、魔大陸周辺の海水を入れて魔力を込めながらさらに混ぜる。


 魔大陸周辺の海って、邪神や魔物の影響を受けて大分変質してるらしいんだ。


 ただ、瘴気を取り込んだ訳じゃなく、瘴気として汚れる前の魔力を多く含んでるんだって。


 瘴気も魔力の一種とは、これ如何に。でも、そうらしいよ。


 今回作るオーブンは、いわゆるオーブンレンジタイプではなく、石窯タイプ。薪で熱を入れる訳じゃないけど、形だけね。


 形に関しては、検索先生に色々教えてもらって、まずは小さめのドーム型に。


 結界で型を作って、その中に亜空間収納で作ったドラゴンコンクリートを流し入れる。


 しっかり型に流し入れたら、魔力で固めて、機能付与もここで入れるんだって。タイマーと温度調節ね。


 温度に関しては、日本の摂氏を採用。検索先生経由で付与するから、面倒がないのがいい。


「よし、完成」


 とはいっても、馴染むまでこのまま三日ほど放置しないといけないけど、このオーブンで最初に焼くのは、何にしようかなー?

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