第158話 本音と建て前

 何だか背筋が寒くなる話を聞いちゃったな……


「ところでジデジルよ、お主何故ここに来たのじゃ?」


 ああ、そうだ。こう見えてもジデジルって、教会のお偉いさんなんだよね。簡単にあちこち出かけられる人じゃないはずなんだけど。


 まさか、教会から私を連れてくるよう言われたとか?


「そんなの、決まっているではありませんか!! 神子様がいらっしゃるところ、私のいる場所です!」


 まさかの返答だった……


 いやまあ、ジデジルってこういう人だってわかっていたけどね。じいちゃんも呆れた顔をしているよ。


「お主の神子贔屓も相変わらずじゃのう……」

「当然です! 我が神の意を受けるただ一人のお方なのですよ? 私の敬愛は、全て神子様に注がれているのです!」


 すいません、それ、返品可能ですか?




「まあ、それはそれとして。一応、教会の仕事で来ているという面もあるのですよ」

「普通はそちらが主じゃろうにのう」

「私にとって、教会の仕事は添え物です」


 それ、はっきり言っちゃ駄目な奴です。本当、ブレないなあ、この人は。


「今回私がダガードに来たのは、北ラウェニア大陸を代表する大聖堂を建設する為です」

「大聖堂?」

「ええ、建設計画自体は、先王陛下の時に立ち上がっているのですけれど、いざ建築に着手する段になって、陛下が身罷られてしまいまして」


 そのまま、計画も頓挫した訳か。それで、代替わりをした今、改めて大聖堂建設計画が再燃したんだって。


 しかも、建設地は王都周辺ではなく、このコーキアン領だという。え……それって、いいの?


「コーキアン領主が建設費の大部分を負担する事で、この領での建設が決まったと聞いていますよ」


 あー、なるほどー。金やら銀やらダイヤやらの鉱脈が見つかってるから、そこからの利益を当てるんだな。


 ダイヤに関しては、じいちゃんの土人形を使っての採掘が既に始まってるし、銀や金も、同じように始まるって聞いてる。


 大聖堂建築って、確か凄くお金かかるんだよね? 本来は凄く時間もかかるらしいけど、そこは魔法を使って工期短縮もあるそうな。


 ただ、北ラウェニアって魔法士の数が少ないんだよね。その辺り、どうするんだろう?


 そんな事を考えていたら、じいちゃんが髭を撫でながら呟く。


「それにしても、よく先王時代に大聖堂を建てるなどという計画が持ち上がったものじゃな」

「どういう事?」


 私の問いに、じいちゃんとジデジルは顔を見合わせて苦笑している。何なの?


「まあ、直接的な言い方をしますと、建設費を賄う事が難しかったという事です」

「北ラウェニア大陸の国々は、貧乏じゃからのう……」


 じいちゃん、ぶっちゃけ過ぎ。


 でもまあ、言いたい事はわかる。南ラウェニアは土地が肥えていて作物も豊富に実るし、家畜も育ち安い。食料が充実していると、技術とかも発展しやすいらしく、工業や商業、魔法も発展している。


 比べて北ラウェニアは魔大陸から飛来する魔物数が多く、また魔物による土壌汚染も酷かったので、今でも作物の実りが今ひとつ。


 家畜も育ちにくくて、邪神が浄化されるまでは食べるにも困るくらいだったっていうのは、有名な話。


 そんな中、大聖堂を建てるだけの金があるのかって事か。そんな余裕があるのなら、食べ物に回せって人もいるだろうね。


「北ラウェニア、特に海を挟んだ向こうに魔大陸があるダガードは、特に土地の穢れが強い土地です。先王陛下は、大聖堂を浄化の中心地にしたいと仰っていたそうですよ」


 なるほど。瘴気の浄化は教会の司祭以上でないと出来ないから、大聖堂を建てて司祭を多く置き、土地の浄化をさせる狙いだった訳か。


「それだけではあるまい。大聖堂を建てられる国力と、教皇庁との繋がりを他国に見せつける為でもあるだろうよ」


 うお、何か話しが一気に生臭くなってきた。政治に宗教を利用するって、何かいやねえ。


「今の陛下は、そうお考えのようですね」

「で? 教皇庁としては、どこを狙っておる?」

「まあ、嫌ですわ賢者様。私共は神に仕える者。狙いなど何もございません。特に私は」


 いや、そう言いながら私を見つめるの、やめてもらえませんかね?


「それはともかく、どうしてこちらでは神子様の髪と瞳の色を変えていらっしゃるんですか? しかも、皆様こちらに神子様がいらっしゃるとご存じでない様子でしたけど」


 う。今更それを言うか。


「神子だって事を、隠してるから」

「そうでしたか……わかりました。では、私もこれからはそのように振る舞います」


 あれ? てっきり何か言われるかと思ったのに。ぽかんとしてジデジルを見ると、彼女はくすっと笑った。


「どのような理由があるかは存じませんが、私ごときが神子様の行動を縛れるものではありません。ああ、いつも通り神子様とお呼びしてしまいますね。これからは、きちんとサーリ様と――」

「だから、様は取ろうよ」

「それだけは出来ません。神子様である貴女様を、敬称も付けずに呼ぶなど」


 ジデジルは、こういうところが固いんだよなあ……


「まあ、わしが教会関係の人間で、その孫だから敬称を付けて呼ぶ癖がある、と言えば誤魔化せるのではないかのう?」

「じいちゃん」

「ありがとうございます、賢者様」


 という訳で、ジデジルは私の事を敬称付きで呼ぶ事が確定してしまいましたとさ。

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